過去問

「安衛法 あっという間にわかる安衛法と派遣労働者の関係」過去問・安衛-17

今回は、安衛法において派遣労働者がどのように関わっているのか、についての過去問を集めてみました。

派遣労働者は、「雇用しているのは派遣元」、「実際に働いている場所は派遣先」という特殊な状況に置かれているので、どんな場合にどっちに責任があるのか、について社労士試験では出題されています。

ケースバイケースで派遣元や派遣先に責任の所在が違っているようですが、その理由を考えて判断できることも多いですので、暗記だけに頼る必要はありません。

最初の問題は、衛生管理者の選任する要件として「常時50人以上」がありますが、派遣労働者は派遣先と派遣元のどちらの事業場の労働者としてカウントされるのかを確認しましょう。

 

派遣労働者はどっちの事業場で「常時50人」にカウントされる?

(平成27年問9A)

事業者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに衛生管理者を選任しなければならないが、この労働者数の算定に当たって、派遣就業のために派遣され就業している労働者については、当該労働者を派遣している派遣元事業場及び当該労働者を受け入れている派遣先事業場双方の労働者として算出する。

 

解説

解答:正

問題文のとおりです。

衛生管理者を選任する要件としての「常時50人以上」の労働者は、「派遣元」、「派遣先」の両方の労働者としてカウントされます。

つまり、派遣元の事業場に常時50人以上の労働者がいるかどうかを判断するときは、派遣元で働いている労働者だけでなく、派遣先で働いている派遣労働者も「常時50人」の中に入るわけです。

たとえば、派遣元で働いている営業マンや事務スタッフが10人だったとしても、派遣労働者が40人以上いれば、衛生管理者を選任する必要があるということですね。

これは派遣先でも同じ考え方をしますよ、というのが問題文の主旨です。

ちなみに、

  • 総括安全衛生管理者、安全衛生管理者、衛生推進者、産業医 →「派遣元」、「派遣先」の両方の労働者
  • 安全管理者 → 派遣先の労働者

とそれぞれみなされます。

さて、一般的に労働者を雇用した場合は、「雇入時の安全衛生教育」を行う必要がありますが、この教育は派遣先と派遣元のどちらに実施する義務があるのかを見てみましょう。

 

雇入時の安全衛生教育は派遣元で良い?

(平成26年問10E)

労働安全衛生法第59条第1項に規定するいわゆる雇入れ時の安全衛生教育は、派遣労働者については、当該労働者が従事する「当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項」(労働安全衛生規則第35条第1項第8号)も含めて、派遣元の事業者がその実施義務を負っている。

 

解説

解答:正

問題文のとおりで、派遣労働者の「雇入れ時の安全衛生教育」は、「派遣元」に実施義務があります。

まだ入社したばかりで、どこの現場に派遣されるのか分からない状態なので、まずは派遣元で安全衛生教育をしなさい、ということなんでしょうね。

では、次の過去問のように、機械やガスなどで労働者の安全や健康が脅かされないようにするための措置になった場合は派遣元か派遣先のどちらになるのか、というところを確認しましょう。

落ち着いて考えれば十分判断できる内容です。

 

健康障害を防止するための措置はどっちの責任で行う?

(平成30年問8D)

派遣就業のために派遣され就業している労働者に関する機械、器具その他の設備による危険や原材料、ガス、蒸気、粉じん等による健康障害を防止するための措置は、派遣先事業者が講じなければならず、当該派遣中の労働者は当該派遣元の事業者に使用されないものとみなされる。

 

解説

解答:正

問題文のとおりで、危険又は健康障害を防止するための措置は、「派遣先」が講じる必要があります。

事業場のどこに危険が潜んでいて、原材料の取り扱いに対してどのように注意しなければならないのか、というのは現場である派遣先でしか分からないですよね。

なので、危険又は健康障害を防止するための措置は、派遣先がしなければならないという規定になっています。

これは、通達で出ていまして、「派遣労働者の安全衛生の確保に係る重点事項」ということで、「派遣先事業者が実施すべき重点事項」の中に、

「派遣労働者の安全衛生を確保するためには、派遣先事業者が、派遣労働者は一般的に経験年数が短いことに配慮し、派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置等を現場の状況に即し適切に講ずることが重要であること。」

と記載されています。

下記に通達のリンクを貼っておきますので、ご興味のある方はご確認ください。

 

参考記事:平成27年9月30日 基発0930第5号

 

では、次は健康診断について見てみましょう。

健康診断には、大きく分けて「一般健康診断」と「特殊健康診断」がありますが、それぞれ誰が実施しなければならないのかを確認することにします。

 

健康診断の実施義務者はどう規定されている?

(平成27年問9D)

派遣就業のために派遣され就業している労働者に対して行う労働安全衛生法に定める医師による健康診断については、同法第66条第1項に規定されているいわゆる一般定期健康診断のほか、例えば屋内作業場において有機溶剤を取り扱う業務等の有害な業務に従事する労働者に対して実施するものなど同条第2項に規定されている健康診断も含めて、その雇用主である派遣元の事業者にその実施義務が課せられている。

 

解説

解答:誤

第2項に規定されている健康診断(特殊健康診断)は、「派遣元」ではなく、「派遣先」がしなければなりません。

つまり、一般定期健康診断は「派遣元」、特殊健康診断は「派遣先」がそれぞれ行うことになります。

念のため、問題文にある条文をご紹介しておきましょう。

(健康診断)第六十六条 

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

となっています。

派遣労働者を雇っているのは「派遣元」なので、一般的な健康診断は派遣元がするとして、特殊健康診断は条文にもあるように、「医師による特別の項目」について行うわけなので、業種に特化した健康診断をする必要があるということですね。

なので、特殊健康診断は「派遣先」に実施義務があるんでしょうね。

さて、特殊健康診断をするのは派遣先がするということでいいのですが、その検診結果の記録はどのように扱うことになっているんでしょうか。

下の過去問でチェックしましょう。

 

特殊健康診断の記録の行方

(平成30年問8B)

派遣労働者に関する労働安全衛生法第66条第2項に基づく有害業務従事者に対する健康診断(以下本肢において「特殊健康診断」という。)の結果の記録の保存は、派遣先事業者が行わなければならないが、派遣元事業者は、派遣労働者について、労働者派遣法第45条第11項の規定に基づき派遣先事業者から送付を受けた当該記録の写しを保存しなければならず、また、当該記録の写しに基づき、派遣労働者に対して特殊健康診断の結果を通知しなければならない。

 

解説

解答:正

問題文のとおりです。

派遣元は、特殊健康診断の結果の「記録の写しの保存」し、「派遣労働者に結果の通知」をしなければなりません。

これも先述した通達に記載があります。

(4) 健康診断の実施及びその結果に基づく事後措置

〜中略〜

イ 特殊健康診断(安衛法第66条第2項及び第3項に基づく健康診断をいう。以下同じ。)の結果の保存及び通知

派遣労働者に関する特殊健康診断の結果の記録の保存は、派遣先事業者が行わなければならないが、

派遣労働者については、派遣先が変更になった場合にも、当該派遣労働者の健康管理が継続的に行われるよう

労働者派遣法第45条第11項の規定に基づき、派遣元事業者は、派遣先事業者から送付を受けた当該記録の写しを保存しなければならないこと。

また、派遣元事業者は、当該記録の写しに基づき、派遣労働者に対して特殊健康診断の結果を通知しなければならないこと。〜後略〜

となっていますが、

つまり、派遣労働者は、同じ現場でずっと働くとは限らないので、特殊健康診断のコピーをちゃんと一元管理しときなさい、ということです。

参考記事:平成27年9月30日 基発0930第5号

 

では最後に、不幸にも労働災害が起きてしまったときに死傷病報告の取り扱いについてチェックしておきましょう。

 

死傷病報告はどっちが出す?

(平成30年問8E)

派遣元事業者は、派遣労働者が労働災害に被災したことを把握した場合、派遣先事業者から送付された所轄労働基準監督署長に提出した労働者死傷病報告の写しを踏まえて労働者死傷病報告を作成し、派遣元の事業場を所轄する労働基準監督署長に提出しなければならない。

 

解説

解答:正

問題文のとおりで、派遣元労働者死傷病報告を作成して所轄労基署へ提出しなければなりません。

つまり、派遣先は自分の事業場で労働災害が起きているわけなので、当然、死傷病報告をしなければなりません。

ですが、派遣元も、派遣先が報告してくれたからそれでいいや、というわけにはいかず、派遣先が提出した死傷病報告を基に、派遣元は、所轄労基署へ死傷病報告をする必要があるのです。

 

今回のポイント

  • 衛生管理者を選任する要件としての「常時50人以上」の労働者は、「派遣元」、「派遣先」の両方の労働者としてカウントされます。
  • 派遣労働者の「雇入れ時の安全衛生教育」は、「派遣元」に実施義務があります。
  • 危険又は健康障害を防止するための措置は、「派遣先」が講じる必要があります。
  • 一般定期健康診断は「派遣元」特殊健康診断は「派遣先」がそれぞれ行うことになります。
  • 派遣元は、特殊健康診断の結果の「記録の写しの保存」し、「派遣労働者に結果の通知」をしなければなりません。
  • 派遣元労働者死傷病報告を作成して所轄労基署へ提出しなければなりません。

 

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