過去問

「労基法 労働時間をめぐる労使の仁義なき闘い」過去問・労基-28

「この時間は労働時間になるのか?」

その判断は、労働者側と使用者側でぶつかりやすい要件の一つです。

労働者側にしてみれば、手を動かしていようといまいと、ここにいなきゃいけないんだから労働時間としてカウントされるべき、というし、

使用者側はお給料を払っている以上、実際に手を動かしている時間だけを労働時間にして、それ以外の時間にお給料を払いたくない、が本音でしょう。

そこで、労働基準法が間に立つわけですが、条文だけでは解釈がなかなかしづらいところもあるので、通達や判例を積み重ねながら現在に至っているのです。

今回は、そんな通達や判例を基にした過去問を集めてみました。

通達や判例は追っかけていくとキリがないですが、過去問を通じて触れておくことで、条文のスタンスも見えてくるので応用が効いてくるようになります。

最初の過去問は「仮眠時間が労働時間にあたるのか」がテーマです。

 

寝ている時間にも給料が発生するのか?

(平成30年問1イ)

貨物自動車に運転手が二人乗り込んで交替で運転に当たる場合において、運転しない者については、助手席において仮眠している間は労働時間としないことが認められている。

 

解説

解答:誤

仮眠している間は労働時間としないことが「認められている」わけではなく、「労働時間になり」得ます。

こちらの問題の根拠となった通達を見てみましょう。

〜昭和33年10月11日基収6286号〜

※ 赤字の部分だけ読んでいただいても大丈夫です。

一部の定期路線においては、運転手甲のほかに交替運転手乙を乗り込ませ、往路は甲が全部運転し、復路は乙が全部運転することとし、運転しない者は助手席において休息し、又は仮眠をするという形態のものがある。

この場合において往路における乙、復路における甲は、労働を提供しない建前となっているので、これらの者の勤務時間は、労働時間とは解し難い点もあるが、また一面、当該トラックに乗り込む点において使用者の拘束を受け

また万一事故発生の際には交替運転、或は故障修理等を行うものであり、その意味において一種の手待ち時間或は助手的な勤務として労働時間と解する。」

となっています。

つまり、いつもは仮眠を取っているものの、使用者側から拘束を受けていて、事故が発生した場合には、運転を交代したり故障した箇所を修理するような規定になっているのであれば、その時間は労働時間になるのですね。

休憩時間であれば、使用者の指揮命令下にはないので、一定の制限は受けるとしても基本的には何をしていても構わないわけですからね。

ちなみに、この通達には、他の例として

「一部の定期路線トラック業者においては、運転手に対して路線運転業務の他、貨物の積込、積卸を行わせることとし、小口の貨物が逐次持ち込まれるのを待機する意味でトラック出発時刻の数時間前に出勤を命じている

この場合、現実に貨物の積込を行う以外の時間は全く労働の提供はなく、いわゆる手待ち時間がその大半を占めているが、出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている以上労働時間と解す

といったものもあります。

手待ち時間や仮眠時間は、一見、労働時間には見えなくても、そこにいる必要があるのであれば、その時間は労働時間になる可能性がありますね。

次も同じく、仮眠についての過去問です。

上記の考え方をふまえて確認していくことにしましょう。

 

警備員さんの仮眠時間が労働時間になるポイントは?

(平成22年問4A)

ビルの巡回監視等の業務に従事する労働者の実作業に従事していない仮眠時間についても、労働からの解放が保障されていない場合には労働基準法上の労働時間に当たるとするのが最高裁判所の判例である。

 

解説

解答:正

問題文のように、労働からの解放が保障されていない仮眠時間は、労働時間にあたります。

これは、「大星ビル管理事件」という判例からの出題です。

※ 赤字の部分だけ読んでいただいても大丈夫です。

労基法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは ,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない仮眠時間(以下「不活動仮眠時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が不活動仮眠時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。

そして,不活動仮眠時間において,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず ,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。」

先ほどのドライバーさんの仮眠時間の時もそうですが、寝ている時間に何かあって叩き起こされるようであれば、それは使用者の指揮命令下に置かれているということになるわけです。

社労士試験では、こういった事例問題のようなものが出てきても、必ず判断材料となるキーワードがありますので、本試験では落ち着いて探すようにしましょうね。

では、それを頭の隅に置いておいて次の過去問を見ていきましょう。

 

業務の準備をどうしてもしなければならないときは、、、?

(平成27年問6ア)

労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときであっても、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合には、当該行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しないとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解説

解答:誤

問題文の場合は、労働時間に「該当します」。

ここでのキーワードは、「義務付けられ、又はこれを余儀なくされたとき」です。

これにより、問題文にある「業務の準備行為」が「使用者の指揮命令下にある」と判断されて、準備をしている時間も労働時間と判断されたわけです。

なので、この準備行為は所定労働時間外に行っていたため、その分の賃金が発生することになったのです。

その判断がなされた判例が、有名な「三菱重工業長崎造船所事件」です。

※ 赤字の部分だけ読んでいただいても大丈夫です。

労働基準法32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。

そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

となったわけです。

ちなみに、この事業場では、業務の準備行為は始業前にするよう言われ、業務後の更衣なども終業後にするよう言われていたということでしたから、使用者側に都合の良い運営であったことは否めないでしょうね。

では最後に、同じく「所定労働時間外」での、研修等が労働時間にあたるかどうか、ということについて見てみましょう。

 

この研修は労働時間になるでしょうか?

(平成26年問5B)

労働者が使用者の実施する教育、研修に参加する時間を労働基準法上の労働時間とみるべきか否かについては、就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無や、教育・研修の内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより本人の業務に具体的な支障が生ずるか否か等の観点から、実質的にみて出席の強制があるか否かにより判断すべきものである。

 

解説

解答:正

問題文のとおり、使用者の実施する教育、研修に参加する時間を労働基準法上の労働時間とみるかどうかは、「実質的にみて出席の強制があるか」で判断されるべきものです。

こちらは通達からの出題です。

〜昭和26年1月20日基収2875号〜

「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない。

とのことです。

あくまで労働者の自主性が見られるか、使用者側も労働者の自主性に任せているかどうかがポイントになりそうです。

数年前になりますが、「ダンダリン」という、竹内結子さんが主演された労働基準監督官を取り扱ったテレビドラマがありました。

そこでも、研修はあくまで労働者の自由意志での参加なので賃金は発生しない、と使用者側が主張していた場面を思い出しました。

(そこでのお話では、研修は結局は強制だったので賃金が発生してしまう、というオチがついたんですけどね。)

参考記事:ダンダリン

 

今回のポイント

  • 労働からの解放が保障されていない仮眠時間は、基本的には「労働時間になり」ます。
  • 業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当します。
  • 使用者の実施する教育、研修に参加する時間を労働基準法上の労働時間とみるかどうかは、「実質的にみて出席の強制があるか」で判断されるべきものです。

 

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