労働契約法で「有期雇用労働者」といえば同一労働同一賃金」が頭をよぎりますが、社労士試験では「雇止め」や「解雇」も大きなテーマの一つになっています。
一般的に有期雇用労働者の方の立場は弱いですから、そう簡単に雇止めが認められては、
いつまで経っても有期雇用労働者の立場は不安定なままです。
そこで、有期労働契約については色々と規定がなされていて、社労士試験でも問われていますので見ていくことにしましょう。
最初の問題は、有期労働契約の「期間」について問われています。
契約期間を決めるときはどのようなことを注意する必要があるのでしょうか。
有期労働契約を交わす場合の注意
(平成23年問4E)
労働契約法に関して、使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならないとされている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
有期労働契約は、終了の期日が決まっている以上、雇止めが前提になっている性質の労働契約です。
ですが、必要以上に短い労働契約を結び、契約を反復継続することは、労働者の立場を弱くしますので配慮しなさいと言っているのですね。
つまり、使用者の都合が悪くなったら雇止め、ということをさせないために上記の規定があります。
もっとも、有期労働契約を反復継続している場合、実質的な無期労働契約とみなされ、雇止めが無効になるケースもありますが。
次は、有期労働契約の途中で労働者を解雇する場合の要件です。
一般的に、労働契約を途中で打ち切って解雇する場合は「やむを得ない事由」がなければ解雇できません。
この、「やむを得ない事由」は有期労働契約とそうでない場合では解釈の仕方が違うようです。
ではどう違うのか見てみましょう。
有期雇用労働者を解雇するときの「やむをえない事由」の考え方
(平成28年問1エ)
使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないが、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭いと解される。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
一般的な解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合、
労働者を解雇することはできません。
これは、もちろん有期労働契約の場合も同じなのですが、有期労働契約の方が「やむを得ない事由」への判断基準が厳しいということになります。
どういうことかというと、有期労働契約は文字どおり、半年なり1年なりと労働契約の期間が決まっています。
この期間は労働者ではなく、使用者が自分で決めたものです。
にもかかわらず、自分で決めた労働契約の期間を途中で放り投げるわけですから、当然、無期の労働契約の場合よりもハードルを上げる必要がありますよね。
なので、問題文のように
『「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」以外の場合よりも狭い』
ということになるのですね。
こちらは通達にありますのでリンクを貼っておきますね。
25ページの「2 契約期間中の解雇(法第17条第1項関係)」に記載がありますのでご自由にご参考になさってくださいね。
参考記事:労働契約の施行について 基発0810第2号 平成24年8月10日
ではもう一問、この「やむを得ない事由」について見ておくことにしましょう。
有期労働契約の場合の「やむを得ない事由」は他の場合よりもハードルが高いというお話をしましたが、どのように「事由」を判断するのか、が論点になっています。
有期雇用労働者を解雇するときの「やむをえない事由」の考え方 その2
(令和元年問3D)
有期労働契約の契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合、当該事由に該当することをもって労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断される。
解説
解答:正
問題文のとおりで、実際の解雇について「やむを得ない事由」があるかどうか「個別具体的な事案」に応じて判断されることになります。
たとえば、もし雇用契約書で、「◯◯の場合は解雇する」という内容について合意していたとしても、それがそのまま認められるわけではなく、
本当に「やむを得ない事由」があったのか個別に判断するということです。
さて、次は「雇止め」に関する問題を見てみましょう。
先ほど、必要以上に短い期間の労働契約を反復継続している場合、実質的な無期労働契約とみなされ、雇止めが無効になるケースがあるとお話しましたが、
もし、労働者側が契約の更新を申し込んだらどうなるのか、が次の問題になっています。
ですが、下の問題は別の論点とすり替えられていますので注意して読んでみましょう。
有期労働契約での労働者の「申込」の効力
(平成29年問1E)
有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合、又は労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合に、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、この場合において、労働者が、当該使用者に対し、期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされる。
解説
解答:誤
「使用者に対し、期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したもの」の箇所が誤りで、
正しくは、
「使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」
です。
どういうことかというと、問題文は無期転換の論点が書かれているのです。
有期の労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みによって、無期労働契約に転換するという制度ですね。
問題文は、労働契約期間のことではなく、雇止めの話です。
なので、雇止めが通常の解雇と同じような意味合いを持つほど労働契約を反復更新していた場合に、労働者が使用者に「働きたい」と申込した場合は、
これまでと同じ有期労働契約の内容の労働条件を使用者は承諾したことになります。
有期労働契約の更新と無期転換の要件をごっちゃにしないように整理しておきましょうね。
では最後に、その「無期転換」についての過去問を見ておきましょう。
無期転換のルールは先ほど述べたとおりですが、5年働いたらみんな無期転換できるのかというとそうでもないようです。
5年で無期転換の申込権が発生しないよう、使用者側に特例が認められているケースがあるのです。
それはどんな場合に特例があるのでしょうか。
無期転換申込権に対する特例
(平成27年問2E)
専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法は、5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている専門的知識等を必要とする業務に就く専門的知識等を有する有期雇用労働者等について、労働契約法第18条に基づく無期転換申込権発生までの期間に関する特例を定めている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
これは「専門的知識等を有する有期雇用労働者」に対する「無期転換申込権に対する特例」です。
つまり、5年を超えるプロジェクトがあった場合、プロジェクトが終わればその仕事も終わるわけで、終わりが見えているのに5年経ったところで無期転換の申込をされても困りますよね。
なので、事前に都道府県労働局長の認定を受ければ「専門的知識等を有する有期雇用労働者」に対しては、10年を限度として、無期転換権の申込を5年から延ばすことができるのです。
ちなみに、この無期転換権の申込権に対する特例は、「専門的知識」だけでなく、「定年」の後ひきつづき雇用している場合にも適用できます。(専門職とは別の認定の形にはなりますが)
今回のポイント
- 使用者は、有期労働契約について、必要以上に短い期間を定めることによって、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければなりません。
- 一般的な解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者を解雇することはできませんが、有期労働契約の方が「やむを得ない事由」への判断基準が厳しいということになります。
- 実際の解雇について「やむを得ない事由」があるかどうか「個別具体的な事案」に応じて判断されることになります。
- 雇止めが通常の解雇と同じような意味合いを持つほど労働契約を反復更新していた場合に、労働者が使用者に「働きたい」と申込した場合は、これまでと同じ有期労働契約の内容の労働条件を使用者は承諾したことになります。
- 使用者は、都道府県労働局長の認定を受ければ「専門的知識等を有する有期雇用労働者」に対しては、10年を限度として、無期転換権の申込を5年から延ばすことができるのです。
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