過去問

「社労士試験 労働に関する一般常識 労働契約法 労働契約のキモとは」過去問・労一-26

社労士試験での労働契約法では、労働契約が成立するにはどんな条件が必要なのか、

また、どの時点で成立したといえるのかといった切り口で出題されたりしています。

これらは、法律の条文を根拠にしていたり、判例から出題されたりもしていますが、

基本的には過去問演習に繰り返し触れることで理解度を深めていくと良いと思います

ただ、労働契約法は社会保険の一般常識の中の1問ですので、あまり深入りしないことが必要です。

それでは過去問を見ていくことにしましょう。

この問題は、労働契約の成立要件が論点になっていますので確認していきますね。

 

労働契約の成立要件とは

(平成24年問1C)

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことによって成立するものとされており、当事者の合意、認識等の主観的事情は、労働契約の成否に影響を与えない。

 

解説

解答:誤り

労働契約が成立するのは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことによって成立するのではなく、「労働者と使用者が合意すること」によって成立します。

で、何について合意するのかというと、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて合意した場合に、労働契約が成立するのです。

では次は、採用内定と労働契約について見ていきましょう。

日本では学生が新卒で企業に就職する形態が広く行われていますが、どの時点で労働契約が成立するのかについて、社労士試験でも取り上げられています。

まず、下の問題を読んでみることにしましょう。

 

採用内定と労働契約の関係

(平成30年問3ア)

いわゆる採用内定の制度は、多くの企業でその実態が類似しているため、いわゆる新卒学生に対する採用内定の法的性質については、当該企業における採用内定の事実関係にかかわらず、新卒学生の就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間、内定企業の作成した誓約書に記載されている採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立しているものとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解説

解答:誤り

実態が類似している、採用内定の事実関係にかかわらず、の部分が誤りです。

これは、大日本印刷事件という最高裁判例からの出題ですが、

日本の採用内定の制度の実態は多様なので、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するときは、

その企業のその年度の採用内定の事実関係を見て検討する必要がある、としています。

なので、採用内定については個別具体的に見ないと、どの時点で労働契約が成立したのか判断できないということになります。

では、この採用内定についてもう一問見ておきましょう。

 

採用内定と労働契約の関係 その2

(平成25年問1C)

いわゆる採用内定の制度の実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきであり、採用内定の法的性質を判断するに当たっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要があるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解説

解答:正

問題文のとおりです。

ちなみに、こちらのケースでは、企業からの求人に対して、新卒予定者の大学生がその求人に対して労働契約の申し込みをしたわけで、

企業側がその学生に対して採用内定の通知を出したということは、労働契約の申し込みを承諾したという形になるので、

採用内定の通知を出して学生が受け取ったことで労働契約が成立したと見ることができ、内定取り消しをするためには、

大学を卒業できなかったなど、社会通念上相当と認められるほどの理由が必要ということになります。

さて、次は就業規則について見てみましょう。

労働契約の内容については、雇用契約書や労働条件通知書などで知ることができますが、

すべての労働条件をそれらに盛り込むことは難しいことがあるので、就業規則で示す方法も認められています。

しかし、就業規則が労働契約の内容なんだよ、と使用者が主張するためには、就業規則を労働者にきちんと周知している必要があります。

でないと、労働者が自分の労働契約の内容を知りようがありませんからね。

就業規則の周知については、労働基準法でも定められていますが、労働契約法での周知の考え方はどうなっているのでしょうか。

次の問題で確認しましょう。

 

労働契約法における就業規則の「周知」って?

(平成27年問1E)

労働契約法第7条にいう就業規則の「周知」とは、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいい、労働基準法第106条の定める「周知」の方法に限定されるものではない。

 

解説

解答:正

問題文のとおりです。

就業規則の周知について、まず労働基準法では、

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  • 書面を労働者に交付すること
  • 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

のいずれかの方法で周知するよう規定されています。

しかし、労働契約法では、通達によると、

「法第7条の「周知」は、これら3つの方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものであること」

としています。

なので、労働契約法の周知方法は労基法の周知方法よりも範囲が広いということになりますね。

こちらの通達については、リンクを貼っておきますのでご自由にご参考になさってくださいね。

 

参考記事:労働契約法の施行について (平成24年8月10日) (基発0810第2号)

※『2 労働契約の成立(法第6条・第7条関係)』の『(2) 法第7条』の部分に記載されています。

 

では最後に、労働者と使用者が合意して締結された「労働契約の履行」について見ておきましょう。

労働契約は、文字どおり契約なので、労働者も使用者も契約を履行する義務が発生するわけですが、

次の問題では、労働者側から見た契約の履行が論点になっています。

ある意味、日本独特の考え方かもしれませんが読んでみましょう。

 

労働者から見た労働契約の履行

(平成26年問1C)

労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当であるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解説

解答:正

問題文のとおりです。

これは片山組事件という最高裁判例からの出題なのですが、

現場監督をしていた労働者が病気のために、業務ができなくなってしまいました。

しかし、診断書では、現場監督は無理だけどデスクワークならできるよ、ということだったのですが、

会社側は、現場監督ができないなら自宅で療養していなさいということで、労働者には自宅療養をさせ、その間の賃金を支払いませんでした。

自宅療養を命じられた労働者は、それを不満として裁判を起こしたわけですが、結果的には労働者が勝ったのです。

ポイントは、そもそも労使で締結した労働契約には、「職種や業務内容を特定していなかった」のです。

これは日本でよくみられる「メンバーシップ型」の雇用で、その企業で何の仕事をするのかを決めずに労働契約が締結されているのです。

その対極にあるのが「ジョブ型」の雇用で、こちらは、労働者がどんな仕事をどこまでするのかが契約で決められています。

もし、問題文の労働者が、現場監督の仕事をするという契約であれば、会社の対応は正解だったのでしょうが、

業務内容が決めていなかったのですから、現場監督は無理でもデスクワークができるなら、労働者は労働契約を履行できるということになるので、

会社の自宅療養命令は不合理ということになったわけです。

 

今回のポイント

  • 労働契約は、労働者と使用者が労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて合意することによって成立します。
  • 判例では、採用内定の制度の実態は多様なので、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するときは、その企業のその年度の採用内定の事実関係を見て検討する必要がある、としています。
  • 労働契約法における就業規則の「周知」は、労基法で規定されている3つの方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるもの、としています。
  • 判例では、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、他の業務については労務の提供をすることができて、かつ、その提供を申し出ているならば、労働契約に従った履行の提供があると解するのが相当であるとしています。

 

毎日の勉強のヒントにどうぞ♫

苦手項目は、とにかく毎日5分でいいので復習を繰り返すと良いです。

スクショを撮る、コピーを取るなど肌身離さず持ち歩き、スキマ時間ができたら見返すようにしましょう。

必ず克服できます!

 

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