今回は、遺族厚生年金の支給要件について取り上げたいと思います。
ちょうど前回、遺族基礎年金の支給要件についての記事になっていますので、比較のためにご覧になっていただければと思います。
参考記事:「社労士試験 国民年金法 遺族基礎年金の支給要件には何があったでしょうか」過去問・国−60
社労士試験では、似たような要件をすり替えて出題されてくることが多いので、しっかりと押さえておきたいですね。
それでは問題に入っていきましょう。
最初の問題は、遺族厚生年金の支給要件の中で、「初診日」がキーワードになっています。
初診日が遺族厚生年金にどのように関わっているのか見ていきましょう。
初診日が関係する遺族厚生年金の支給要件とは
(令和2年問10ア)
被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したときは、死亡した者が遺族厚生年金の保険料納付要件を満たしていれば、死亡の当時、死亡した者によって生計を維持していた一定の遺族に遺族厚生年金が支給される。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
「被保険者であった者」が、「被保険者の資格を喪失した後」に、
「被保険者であった間に初診日」がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとき
は、保険料納付要件など所定の要件を満たしていれば、遺族厚生年金が遺族に支給されます。
遺族厚生年金の支給要件は、
- 被保険者が死亡したとき
- 被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとき。
- 障害等級の1級または2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)または保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が死亡したとき
となっています。
ちなみに、「1」の「被保険者」は、失踪の宣告を受けた被保険者であった者で、行方不明となった当時被保険者であったものを含みます。
それでは、遺族厚生年金の保険料納付要件を見てみましょう。
次の問題では、保険料納付要件が論点になっていて、原則の要件に加えて、経過措置での特例も問われていますので確認していきますね。
遺族厚生年金の保険料納付要件
(平成28年問3オ)
63歳の厚生年金保険の被保険者が平成30年4月に死亡した場合であって、死亡日の前日において、その者について国民年金の被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が、当該被保険者期間の3分の2未満であり、保険料納付済期間と保険料免除期間及び合算対象期間とを合算した期間が25年未満であるが、60歳から継続して厚生年金保険の被保険者であった場合は、死亡した者によって生計を維持していた一定の遺族に遺族厚生年金が支給される。(問題文を一部再構成しています)
解説
解答:正
問題文のとおりです。
遺族厚生年金の保険料納付要件は、
- 原則 → 死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに、国民年金の被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上あること
- 経過措置での特例 → 令和8年4月1日前に死亡した者で、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないこと(ただし、死亡日において65歳未満であることが条件)
となっています。
問題文では、原則の要件を満たすことはできていませんが、60歳から厚生年金の被保険者になっているので、
亡くなる63歳まで保険料を納めていることになります。
ということは、死亡までの1年以上は保険料を納付していることになり、特例の要件を満たす形になりますね。
で、遺族厚生年金には、遺族基礎年金と違って、被保険者期間の月数によって金額が変わってきます。
となると、被保険者期間が短いと、低い金額になってしまい遺族厚生年金の役割が果たせない可能性があります。
そこで、遺族厚生年金には、最低保障の制度があり、「短期要件」と呼ばれるものがあります。
この短期要件がどのようなものなのか、次の問題で確認しましょう。
遺族厚生年金の短期要件とは
(平成26年問10D)
障害等級2級の障害厚生年金を受給する者が死亡した場合、遺族厚生年金を受けることができる遺族の要件を満たした者は、死亡した者の保険料納付要件を問わず、遺族厚生年金を受給することができる。この場合、遺族厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が300か月に満たないときは、これを300か月として計算する。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
短期要件がどういう仕組みになっているかというと、支給要件の上から3つが該当しますが、つまり、
- 被保険者が死亡
- 被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡
- 障害等級の1級または2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡
の場合に、遺族厚生年金の額を計算するときの被保険者期間が300ヶ月ない場合に「300ヶ月として」計算することにより、
遺族厚生年金の支給額の最低保障を行なっているのです。
ちなみに、短期要件があるということは、「長期要件」もあるのですが、これは、
- 老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)または保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が死亡したとき
に適用されます。
つまり、被保険者期間が25年以上あれば長期要件が適用されるということですね。
さて、次は遺族厚生年金を受ける遺族について見てみましょう。
下の問題では、夫が受給権者になるケースについて問われていますが、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか。
夫に関する遺族厚生年金の支給要件
(令和2年問10オ)
遺族厚生年金は、被保険者の死亡当時、当該被保険者によって生計維持されていた55歳以上の夫が受給権者になることはあるが、子がいない場合は夫が受給権者になることはない。
解説
解答:誤り
夫が遺族厚生年金を受ける場合の支給要件は年齢要件のみで、「子」がいるかどうかは関係ありません。
「子がいる配偶者」という要件は遺族基礎年金の方ですね。
このような引っかけ問題には注意が必要ですね。
で、遺族厚生年金の受給権者に該当するのは、
「配偶者、子、父母、孫または祖父母で、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時に、その者によって生計を維持したもの」
ということになります。
兄弟姉妹が入っていない点は要注意ですね。
それに、遺族基礎年金では「配偶者と子」しか受給権者になれませんから、その点も区別しておく必要がありますね。
また、夫や父母、祖父母については、55歳以上という年齢要件もあったりしますので、
お手持ちのテキストでご確認されておくことをお勧めします。
では最後に、遺族厚生年金の受給権者になるための生計維持要件では、収入に関する要件が規定されています。
一定以上の収入があると受給権者になれませんので、どのように定められているのか確認しておきましょう。
遺族の生計維持要件は?
(平成25年問8C)
被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた子であっても、年額130万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる場合は、その者によって生計を維持されていたとは認められず、遺族厚生年金を受けることができる遺族になることはない。
解説
解答:誤り
遺族厚生年金の遺族として認定されるためには、年額130万円ではなく、年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる場合は、
生計を維持されていた遺族とは認められず、遺族厚生年金の受給権者になることができません。
年額130万円というのは、被扶養者の要件ですので、混同しないようにしたいですね。
今回のポイント
- 遺族厚生年金の支給要件は、
- 被保険者が死亡したとき
- 被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとき。
- 障害等級の1級または2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者(保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者に限る。)または保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者が死亡したとき
となっています。
- 遺族厚生年金の保険料納付要件は、
- 原則 → 死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに、国民年金の被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上あること
- 経過措置での特例 → 令和8年4月1日前に死亡した者で、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間のうちに保険料納付済期間及び保険料免除期間以外の国民年金の被保険者期間がないこと(ただし、死亡日において65歳未満であることが条件)
です。
- 短期要件がどういう仕組みになっているかというと、支給要件の上から3つが該当しますが、つまり、
- 被保険者が死亡
- 被保険者であった者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であった間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡
- 障害等級の1級または2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡
の場合に、遺族厚生年金の額を計算するときの被保険者期間が300ヶ月ない場合に「300ヶ月として」計算することにより、
遺族厚生年金の支給額の最低保障を行なっているのです。
- 夫が遺族厚生年金を受ける場合の支給要件は年齢要件のみで、「子」がいるかどうかは関係ありません。
- 遺族厚生年金の遺族として認定されるためには、年額130万円ではなく、年額850万円以上の収入を将来にわたって有すると認められる場合は、生計を維持されていた遺族とは認められず、遺族厚生年金の受給権者になることができません。
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