労働契約法は、択一式の労働一般では毎年出題されているほどの超頻出の法律ですよね。
このブログでも労働一般を取り上げる場合は、労働契約法を中心に取り上げてみたいと思います。
今回は「労働契約の変更」をテーマに過去問を集めてみました。
法律そのものばかりではなく、判例からも多く出題されていますが、事件名や判決内容だけを押さえるのではなく、背景にどのような考え方があるのか、ということも感じながら読んでいくと応用が効きやすいと思います。
それでは最初の問題を見てみましょう。
労働契約を結んだり変更したりする時に大切なことが何なのかが問われています。
労働契約の締結や変更に必要なこととは
(平成26年問1D)
労働契約法第3条第1項において、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」と規定されている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
労働契約は、労働者と使用者が、「対等の立場で合意に基づいて」締結や変更が行われるべきものとされています。
労働契約法3条には、上記の「合意」をはじめ、色々なキーワードで規定されていますので確認してみましょう。
労働契約法3条(労働契約の原則)
- 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
- 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
- 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
- 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
- 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
すべてを記憶する必要はないと思いますが、たとえば選択式で問われた時に、選択肢の中から選べるくらいまで馴染んでおきたいですね。
さて、労働契約には労働条件についての内容が多いと思います。
労働基準法では、絶対的明示事項については書面で明示することが規定されていますが、労働契約法では労働契約の内容についてどのように定めているのでしょう。
次の過去問で確認しましょう。
労働契約の内容について大切なこと
(平成23年問4B)
労働契約法に関して、労働者及び使用者は、期間の定めのある労働契約に関する事項を含め、労働契約の内容については、できるだけ書面により確認するものとされている。
解説
解答:正
問題文のとおりで、労働契約の内容についてはできるだけ書面により確認するもの、としています。
これはやはり、労働契約の内容は、後で「言った言わない」でトラブルになりやすいからなんですね。
先ほど、「絶対的明示事項は書面で」と書きましたが、それすら守られていないこともあります。
労働者が安心して働ける環境を作るために、まずは労働契約は書面で交わすことからなのかもしれませんね。
それでは、次の問題を見てみましょう。
ここでの論点は、労働者側に特定の仕事ができない場合に、労働契約を果たしたことになるのかというお話です。
たとえば、ケガや病気でこれまで行ってきた業務をすることが一部分でもできなくなったら、労働契約を守ることができなくなってしまっているのでしょうか。
特定の業務ができないとしても、、、
(平成26年問1C)
労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当であるとするのが、最高裁判所の判例である。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているなら、いまなお債務の本旨に従った履行の提供がある、とされています。
これは、片山組事件という最高裁判例からの問題なのですが、もともと現場監督をしていた方が体調を崩して現場監督の業務ができなくなってしまいました。
その方は、事務作業ならできると会社側に伝えたのですが、会社は自宅待機を命じたのだそうです。
判決としては、現場監督の業務ができなくても、それまでの経験や能力に応じてできる仕事があって、本人も望んでるなら労務の提供はできる、となったのです。
ただ、労働契約では職種や業務内容を特定していなかった、という条件があったので事務作業でもオーケーということはあったようです。
では、次は就業規則の変更がテーマになっている問題です。
労働契約書だけでなく、就業規則についても、その内容は労働条件がてんこ盛りなわけですから、そこで働く人にとっては大切な代物ですよね。
その就業規則を変更した時に、その合理性を判断する要素について論点になっているのが下の過去問です。
早速見ていくことにしましょう。
就業規則の変更で重要視されること
(平成25年問1D)
使用者が社内の多数労働組合の同意を得て就業規則を変更し、55歳以降の賃金を54歳時よりも引き下げつつ、定年年齢を引き上げた事案について、本件就業規則の変更は、多数労働組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから、変更後の就業規則の内容は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性等にかかわらず、労使間の利益調整がされた結果として合理的なものとみなすことができるとするのが最高裁判所の判例である。
解説
解答:誤
「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性等にかかわらず」というところが誤りです。
こちらも、第四銀行事件という判例からの出題ですが、定年を延長する代わりに賃金を引き下げますよ、という内容だったのです。
その判決では、就業規則の合理性を判断するには以下の内容を考慮する必要があるとしています。
すべて押さえる必要はないと思いますが、挙げておきますね。
- 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
- 使用者側の変更の必要性の内容・程度
- 変更後の就業規則の内容自体の相当性
- 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
- 労働組合等との交渉の経緯
- 他の労働組合又は他の従業員の対応
- 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
を総合考慮して判断すべきである、としています。
裁判当時は、55歳から60歳への定年延長が国の重要政策だったらしく(今もそうですが。)、定年を延ばして雇用を守るようにするので、賃金の引き下げも一般社会からみたら高水準だったようです。
なので、就業規則の変更によって、労働条件が引き下げられることは原則としては認められないけど、変更内容に上記のような合理性が認められるなら仕方ないよね、ということになったのですね。
では最後に、就業規則の変更手続きが変更した就業規則の合理性にどれだけ貢献するのか、という問題になっていますので確認しておきましょう。
就業規則の変更手続きと法的効果の関係
(平成29年問1C)
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、労働契約法第11条に定める就業規則の変更に係る手続を履行されていることは、労働契約の内容である労働条件が、変更後の就業規則に定めるところによるという法的効果を生じさせるための要件とされている。
解説
解答:誤
就業規則の変更手続きをちゃんとしているからといって、変更した就業規則が合理的だという法的効果があるわけではありません。
労働契約法第11条というのは、
「就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法 第八十九条及び第九十条の定めるところによる。」
といった内容なのですが、その労基法89条、90条というのが、常時10人以上の事業場の就業規則作成義務、過半数代表者への意見聴取ということになっています。
つまり、就業規則の作成や変更について、過半数代表者の意見を聴いているからといって、その就業規則が合理的とまでは言えないよ、ということですね。
ただ、合理性の判断をするのに考慮はしてくれるようです。
これは通達にありますので下にリンクを貼っておきますね。
「第3 労働契約の成立及び変更(法第2章関係)」の「5 就業規則の変更に係る手続(法第11条関係)」のところに記載がありますので、ご自由にご参考になさってくださいね。
参考記事:「労働契約法の施行について」の一部改正について 平成30年12月28日 基発1228第17号
今回のポイント
- 労働契約は、労働者と使用者が、「対等の立場で合意に基づいて」締結や変更が行われるべきものとされています。
- 労働契約の内容についてはできるだけ書面により確認するもの、としています。
- 特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているなら、いまなお債務の本旨に従った履行の提供がある、とできる可能性があります(労働契約の内容によります)
- 就業規則の合理性を判断するには、「労働者の受ける不利益の程度」や「使用者側の変更の必要性の内容・程度」などいくつかの条件を総合的に考慮する必要があります。
- 就業規則の変更手続きをちゃんとしているからといって、変更した就業規則が合理的だという法的効果があるということにはなりません。
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