今回は事業主からの費用徴収についての過去問を集めてみました。
「費用」というのは、保険給付に要した「費用」ということになるのですが、なぜ事業主が保険給付の費用を払わなければならないのかというと、
「事業主が保険料を払っていない」
からなんですね。
どのタイミングで保険給付が行われたか、過失の程度はどのくらいか、によって費用を徴収できるのかどうか、であったり費用の割合が変わってきます。
では、早速見ていくことにしましょう。
どんな場合に事業主から費用を徴収できる?
(平成26年問6)
政府が保険給付を行ったとき、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できる事故として、正しいものはどれか。
(問A)
事業主が重大でない過失により、保険関係の成立につき、保険関係が成立した日、事業主の氏名又は名称及び住所、事業の種類、事業の行われる場所その他厚生労働省令で定める事項を政府に届出していない期間中に生じた事故
解説
解答:誤
「重大でない過失」ではなく、「故意又は重大な過失」により保険関係成立届を提出していない期間中に生じた事故については、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。
ただし、政府がその事業について概算保険料の認定決定をしたときは、その決定後の期間は除かれます。
ここでは、「故意又は重大な過失」がキーワードになるのですね。
次の問題は、「督促」の前後のタイミングが問われています。
督促を受ける前に事故が起きたときはどうなるのでしょうか。
(問B)
事業主が、労働保険の事業に要する費用にあてるために政府に納付すべき一般保険料を納付せず、その後、政府から督促を受けるまでの期間中に生じた事故
解説
解答:誤
「督促を受けるまでの期間中」ではなく、「督促状に指定する期限後の期間に」生じた事故については、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。
督促を受けているのに保険料を支払わないということは、その分悪質性を問われるということになるのでしょうね。
さて、次の問題は、保険料ではなく、事業主の職場環境が問われています。。。
(問C)
事業主が、労働保険の事業に要する費用にあてるために政府に納付すべき一般保険料を納付し、その後、重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故
解説
解答:正
問題文のとおりです。
事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故については、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。
これは、保険料を払っているかどうかの話ではなく、業務災害の原因が事業主の故意または重大な過失によって起きた場合は、その費用を負担しなければならないケースがあるということですね。
次の問題は特別加入のケースです。
保険料を払うべき本人が保険料を納付しないまま事故が起きた場合にどうなるのか見てみましょう。
(問D)
事業主が、労働保険の事業に要する費用にあてるために政府に納付すべき第一種特別加入保険料を納付せず、その後、政府から督促を受けるまでの期間中に生じた事故
解説
解答:誤
第一種特別加入保険料を滞納している期間中に事故が起きた場合は、費用徴収ではなく、支給制限となります。
つまり、費用徴収というと、一旦保険給付を行ってからその費用を徴収するという順序になりますが、
特別加入の場合、保険料を支払っていない張本人に事故が起きているので、最初から支給制限にした方が手取り早いですよね。
なので、特別加入者の保険料滞納の場合は、「支給制限」になっているのですね。
これは、滞納ではなく、業務災害の原因が故意または重大な過失で起きた場合も同様です。
先ほどの問題は第一種特別加入保険料でしたが、一人親方である第二種特別加入保険料の場合はどうなるのでしょうか。
(問E)
事業主が、労働保険の事業に要する費用にあてるために政府に納付すべき第二種特別加入保険料を納付せず、その後、政府から督促を受けるまでの期間中に生じた事故
解説
解答:誤
第二種特別加入保険料の滞納についても、第一種と同様、支給制限になります。
さて、次の平成27年の問題は、費用徴収の割合が論点になっています。
ネタバレになってしまいますが、故意の場合は◯%、重大な過失の場合は◯%、といった具合です。
費用徴収の割合はどんな要件で変わる?
(平成27年問4)
労災保険の適用があるにもかかわらず、労働保険徴収法第4条の2第1項 に規定する労災保険に係る保険関係成立届(以下、本問において「保険関係成 立届」という。)の提出を行わない事業主に対する費用徴収のための故意又は 重大な過失の認定に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。労災保険の適用があるにもかかわらず、労働保険徴収法第4条の2第1項 に規定する労災保険に係る保険関係成立届(以下、本問において「保険関係成立届」という。)の提出を行わない事業主に対する費用徴収のための故意又は 重大な過失の認定に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(問A)
事業主が、労災保険法第31条第1項第1号の事故に係る事業に関し、保険手続に関する指導を受けたにもかかわらず、その後10日以内に保険関係成立届を提出していなかった場合、「故意」と認定した上で、原則、費用徴収率を100%とする。
解説
解答:正
保険手続に関する指導を受けたにもかかわらず、その後10日以内に保険関係成立届を提出していなかった場合は、「故意」と認定した上で、原則として、費用徴収率は100%となります。
指導を受けているのにも関わらず保険関係成立届を出さないというのは、もはや過失にはならないということですね。
次の問題は、「指導」ではないのですが、「加入勧奨」を受けた場合はどうなるのか、という論点になっています。
(問B)
事業主が、労災保険法第31条第1項第1号の事故に係る事業に関し、加入勧奨を受けたにもかかわらず、その後10日以内に保険関係成立届を提出していなかった場合、「故意」と認定した上で、原則、費用徴収率を100%とする。
解説
解答:正
加入勧奨を受けたにもかかわらず、その後10日以内に保険関係成立届を提出していなかった場合「故意」と認定した上で、原則、費用徴収率は100%となります。
こちらも、「勧奨」とはいえ、保険関係成立届を出さなきゃならないことを知ったわけですから、成立届を出さないのは「故意」になってしまうんですね。
次は、指導や勧奨を受けていないまま1年が過ぎてしまったときはどうなるのか、という問題になっています。
指導や勧奨を受けていないということであれば「故意」ではないような気もしますが、、、
(問C)
事業主が、労災保険法第31条第1項第1号の事故に係る事業に関し、保険手続に関する指導又は加入勧奨を受けておらず、労働保険徴収法第3条に規定する保険関係が成立した日から1年を経過してなお保険関係成立届を提出していなかった場合、原則、「重大な過失」と認定した上で、費用徴収率を40%とする。
解説
保険手続きに関する指導又は加入勧奨を受けておらず、保険関係が成立した日から1年を経過してなお保険関係成立届を提出していなかった場合「重大な過失」と認定した上で、費用徴収率は40%となります。
指導や勧奨を受けていないときは、さすがに「故意」とはならず、「重大な過失」になるので費用の徴収率も下がりますね。
では、次は「重大な過失」に関する論点を見てみましょう。
「え?成立届が要るの?」
となった場合は「重大な過失」になるのでしょうか。。。
(問D)
事業主が、保険手続に関する指導又は加入勧奨を受けておらず、かつ、事業主が、その雇用する労働者について、取締役の地位にある等労働者性の判断が容易でないといったやむを得ない事情のために、労働者に該当しないと誤認し、労働保険徴収法第3条に規定する保険関係が成立した日から1年を経過してなお保険関係成立届を提出していなかった場合、その事業において、当該保険関係成立日から1年を経過した後に生じた事故については、労災保険法第31条第1項第1号の「重大な過失」と認定しない。
解説
解答:正
問題文のように「誤認」をした場合は、「重大な過失」と認定されません。
ただ、「誤認」にも程度があるようで、問題文のように労働者性の判断が容易できずやむを得ない事情が認められる場合に限られます。
では、先ほどの問題は「人」に関する問題でしたが、次の問題は、事業そのものが独立したものなのかどうか、について問われていますのでチェックしましょう。
(問E)
事業主が、労災保険法第31条第1項第1号の事故に係る事業に関し、保険手続に関する指導又は加入勧奨を受けておらず、かつ、事業主が、本来独立した事業として取り扱うべき出張所等について、独立した事業には該当しないと誤認したために、当該事業の保険関係について直近上位の事業等他の事業に包括して手続をとり、独立した事業としては、労働保険徴収法第3条に規定する保険関係が成立した日から1年を経過してなお保険関係成立届を提出していなかった場合、「重大な過失」と認定した上で、原則、費用徴収率を40%とする。
解説
解答:誤
問題文の「誤認」の場合では、「重大な過失」とは認定されません。
こちらは直近上位の事業にまとめて手続きはしているわけなので「重大な」過失にはあたらない、ということなんでしょうね。
今回のポイント
- 「故意又は重大な過失」により保険関係成立届を提出していない期間中に生じた事故については、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。
- 「督促状に指定する期限後の期間に」生じた事故については、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。
- 事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故については、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収できます。
- 第一種、第二種特別加入保険料を滞納している期間中に事故が起きた場合は、費用徴収ではなく、支給制限となります。
- 保険手続に関する指導や加入勧奨を受けたにもかかわらず、その後10日以内に保険関係成立届を提出していなかった場合は、「故意」と認定した上で、原則として、費用徴収率は100%となります。
- 保険手続きに関する指導又は加入勧奨を受けておらず、保険関係が成立した日から1年を経過してなお保険関係成立届を提出していなかった場合「重大な過失」と認定した上で、費用徴収率は40%となります。
- 労働者性や事業所の独立性について誤認をした場合は重大な過失とは認定されません。
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