〜「厚生年金法 標準報酬月額の決定や改定の要件にうんざりしていませんか?」厚-29〜
標準報酬月額が決まるタイミングは、「資格取得時」、「定時決定」、「随時改定」、「育児休業等終了時改定」などといったものがありましたね。
でも、それぞれ要件があって、このタイミングで改定したらそれはいつまで有効とか、そもそも報酬はどれを含むとか含まないとか悩ましいところですね。
今回の記事ですべてをご紹介することはできませんが、これをきっかけにお手持ちのテキストなどでご確認いただき、知識の定着につなげていただければと思います。
最初の問題は、報酬が時間給などになっている場合の標準報酬月額の決め方です。
標準報酬月額というのは、文字どおり、月給の場合は出しやすいのですが、たとえば時間給でシフト制になっていると、月ごとに報酬にバラツキがあって計算しにくそうです。
なので、どうやって標準報酬月額が決まっていくのかを見ていきましょう。
時給制などの場合、標準報酬月額はどうやって決める?
(平成30年問10D)
実施機関は、被保険者の資格を取得した者について、日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合には、被保険者の資格を取得した月前1か月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額を報酬月額として、その者の標準報酬月額を決定する。当該標準報酬月額は、被保険者の資格を取得した月からその年の8月(6月1日から12月31日までの間に被保険者の資格を取得した者については、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合、資格取得時決定は、
「被保険者の資格を取得した月前1か月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額」
が標準報酬月額になります。
要するに、とりあえずは、職場の周りの人のお給料を参考にして標準報酬月額を決めておこうということでしょうか。
もし、実際に働いてみて大幅に違うようであれば随時改定で変えればいいじゃん、ってとこですかね。
ちなみに、月給制の場合は、「被保険者の資格を取得した日の現在の報酬の額をその期間の総日数で除して得た額の30倍に相当する額」となっています。
つまり、お給料の額をその月の総日数で割ることで、いったん日給を出したうえで30を掛けるということですね。
なんでわざわざこんなことをするのかというと、1ヶ月の日数って、31日の月もあれば28日の月もあったりしますので、日給を出して30を掛けることで報酬額をならしていくイメージです。
さて、次はその随時改定についての過去問です。
随時改定というのは、昇級などでお給料に変動があったときに行われるものですが、その変動したお給料(報酬)は何を指すのか、どういったケースが対象外になるのかを論点にしています。
少し文章が長いですが見てみましょう。
随時改定が行われるための報酬の変動の要件とは?
(平成25年問8A)
厚生年金保険法第23条に基づく改定(いわゆる随時改定)の取扱いは、昇給又は降給により、従前の標準報酬月額等級との間に原則として2等級以上の差が生じた場合に行われるべきものであるが、ここにいう昇給又は降給とは、固定的賃金の増額又は減額をいい、ベースアップ又はベースダウン及び賃金体系の変更による場合並びにこれらの遡及適用によって差額支給を受ける場合を含み、休職のため、一時的に通常の賃金より低額な休職給を受けた場合を含まないものとする。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
つまり随時改定の要件を整理すると
- 昇給又は降給とは、固定的賃金の増額又は減額を指すので、残業代のような毎月変動するものは対象外です。
- なので、ベースアップ又はベースダウン及び賃金体系の変更による場合が対象になります。
- また、昇級分を数ヶ月分まとめて受け取る(遡及適用)ような場合も含みます。
- ただし、休職による休職給を受けた場合は含みません。
ということです。
ちなみに、問題文は通達をベースに作られていますのでリンクを貼っておきますね。
気になる方はチェックしてみてください。
次は、通常の方法で算定していてはおかしな標準報酬月額になるときに対処する、「保険者算定」の定義についての過去問をチェックしましょう。
保険者算定の定義とは?
(令和元年問7C)
被保険者の報酬月額について、厚生年金保険法第21条第1項の定時決定の規定によって算定することが困難であるとき、又は、同項の定時決定の規定によって算定された被保険者の報酬月額が著しく不当であるときは、当該規定にかかわらず、実施機関が算定する額を当該被保険者の報酬月額とする。
解説
解答:正
問題文のとおりで、保険者算定は 「通常の規定のまま算定することが困難なとき」や、「そのまま算定すると著しく不当なとき」に行われます。
たとえば、お給料の遅配分がまとめて振り込まれたタイミングで標準報酬月額を算定すると相当高いものに設定されてしまう可能性がります。
そのときは、遅配分を差し引いて算定するよ、といったイメージです。
具体例については、日本年金機構のホームページにありますので、リンクを貼っておきますね。
参考記事:日本年金機構 保険者決定
次の過去問は、育休明けに行う「育児休業等終了時改定」についての問題です。
改定された標準報酬月額が、どこからどこまで有効なのかを論点にしていますので、チェックしましょう。
育児休業等終了時改定の方法は?
(平成24年問9E)
育児休業等を終了した際に改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して2か月を経過した日の属する月からその年の8月(当該月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)までの各月の標準報酬月額とする。
解説
解答:誤
育児休業等終了時改定は、育児休業等終了日の翌日から起算して「2か月を経過した日の属する月」ではなく、「2か月を経過した日の属する月の翌月」から、
その年の8月(当該月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)まで有効になります。
そもそもの育児休業等終了時改定の手順としては、
- 育児休業等が終了する日の翌日が属する月以後3ヵ月間に受けた報酬の総額を、
- その期間の月数で割った額を基に標準報酬月額を改定します。
- ただし、報酬支払の基礎となった日数が17日未満の月がある場合はその月を除いて計算します。
- その改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して「2か月を経過した日の属する月の翌月」から、その年の8月(当該月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)まで有効
ということになるわけです。
なんだか抽象的すぎて何を言っているのか分かりにくいので、次の事例問題で具体的に見ていくことにしましょう。
育児休業等終了時改定の事例問題で確認しましょう
(令和元年問8B)
月給制である給与を毎月末日に締め切り、翌月10日に支払っている場合、4月20日に育児休業から職場復帰した被保険者の育児休業等終了時改定は、5月10日に支払った給与、6月10日に支払った給与及び7月10日に支払った給与の平均により判断する。
解説
解答:誤
問題文のケースですと、4月20日に育児休業から復帰しているので、4月20日の翌日である「4月21日以後3ヵ月間に受けた報酬の総額」を見ることになります。
4月21日の月に受けた報酬ということですから4月にもらった報酬からカウントするんですね。
なので、「4月10日」、「5月10日」、「6月10日」に支給されたお給料を足して3で割った金額を基に標準報酬月額を決めるわけです。
ですから、問題文にある、「5月10日に支払った給与、6月10日に支払った給与及び7月10日に支払った給与」の部分が誤りです。
ちなみに、報酬支払の基礎となった日数が「17日未満」である月があるときは、その月を除きますので注意が必要ですね。
今回のポイント
- 日、時間、出来高又は請負によって報酬が定められる場合、資格取得時決定は、「被保険者の資格を取得した月前1か月間に当該事業所で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額」が標準報酬月額になります。
- 随時改定の要件は、
- 昇給又は降給とは、固定的賃金の増額又は減額を指すので、残業代のような毎月変動するものは対象外です。
- なので、ベースアップ又はベースダウン及び賃金体系の変更による場合が対象になります。
- また、昇級分を数ヶ月分まとめて受け取る(遡及適用)ような場合も含みます。
- ただし、休職による休職給を受けた場合は含みません。
- 保険者算定は 「通常の規定のまま算定することが困難なとき」や、「そのまま算定すると著しく不当なとき」に行われます。
- 育児休業等終了時改定は、育児休業等終了日の翌日から起算して「2か月を経過した日の属する月の翌月」から、その年の8月(当該月が7月から12月までのいずれかの月である場合は、翌年の8月)まで有効になります。
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