私が社労士試験の受験勉強をしているとき、社会復帰促進等事業は、どこか掴みどころがなく苦手な項目でした。
それに、いろいろな要件があるので選択式で出題されたらどうしよう、という不安もありましたね。
ですが、要件を丸暗記するのは相当な労力が必要なので、まずは概略から攻めていくのが得策かと思います。
どういうことかというと、社会復帰促進等事業が誰に対してどんなことをしているのかを大まかに押さえるのです。
つまり、社会復帰促進等事業が対象にしているのは、「労働者」と「その遺族」です。
で、労働者に対しては職場に復帰できるように療養やリハビリの援助をしたり、遺族に対しては学費や資金の援護があったりします。
また、そもそも業務災害が起こらないようにするための援助などもありますね。
というように、最初は、概要だけで構いませんので社会復帰促進等事業がどんなことをしているのかざっくり見ていくことにしましょう。
それでは最初の問題に入っていきたいと思います。
1問目は、社会復帰促進等事業が通勤災害も対象にしているのか、という論点になっています。
通勤災害の取り扱いはどうなっているのでしょうか?
社会復帰促進等事業は通勤災害も対象?
(平成29年問3ア)
社会復帰促進等事業は、業務災害及び複数業務要因災害を被った労働者に関する事業であり、通勤災害を被った労働者は対象とされていない。(問題文を一部補正しています)
解説
解答:誤り
社会復帰促進等事業は、業務災害だけではなく、通勤災害を被った労働者も対象になっています。
どういうことかというと、労災保険法第29条を見てみると、
『1 政府は、この保険の適用事業に係る労働者及びその遺族について、社会復帰促進等事業として、次の事業を行うことができる。
一 療養に関する施設及びリハビリテーションに関する施設の設置及び運営その他業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害を被つた労働者(次号において「被災労働者」という。)の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業』(後略)
と規定しており、通勤災害に遭った労働者も対象になっています。
「通勤」はプライベートではなく、仕事に行くための行為ですから、通勤中の災害については社会復帰促進等事業の対象外というのは違和感がありますね。
で、上記の規定には、「労働者及びその遺族」と書いてあり、労働者だけではなく、労働者の遺族も対象になっています。
では、労働者の遺族に対してどのような社会復帰促進等事業があるのか見てみましょう。
社会復帰促進等事業と遺族の就学
(平成26年問4D)
政府が行うことができる社会復帰促進等事業には、被災労働者の遺族の就学の援護を図るために必要な事業が含まれる。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
社会復帰促進等事業には、遺族の就学の援護も行っていて、在学者の区分に応じて在学者1人につき一定額を支給することになっています。
これは奨学金ではないので、返済の必要はありませんし、奨学金を受けていても減額されることはありません。
これは、就学援護費と呼ばれるものですが、これについて別の視点から見た過去問がありますので読んでみましょう。
就学援護費の処分に対して不服を申し立てることはできる?
(平成29年問7B)
労働基準監督署長の行う労災就学援護費の支給又は不支給の決定は、法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使とはいえず、被災労働者又はその遺族の権利に直接影響を及ぼす法的効果を有するものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である。
解説
解答:誤り
就学援護費は、労基署長が支給するかどうか決定するのですが、これは行政処分にあたるため、それを不服として訴訟を起こすことは可能です。
どういうことかというと、「就学援護費」という名前からして福祉事業のようなイメージがあり、
それに対して不服を申し立てることはできないのではないか、と思ってしまいそうです。
ですが、問題文にもあるように、就学援護費を支給するかどうかは法律に基づいて労基署長が一方的に決定するので、
公権力の行使にあたり、その決定に不満があるなら訴訟の対象になるよ、ということですね。
なので、就学援護費の不支給が不当なものかどうかは、裁判で争うことができるわけです。
さて、社会復帰促進等事業は、遺族に対する就学の援護を行う事業がありますが、
そもそも労働者が不幸にして亡くなった場合にお葬式などの費用の援護も事業に入っているのでしょうか。
社会復帰促進等事業の役割をイメージしながら、次の問題文を見てみましょう。
お葬式の費用も社会復帰促進等事業がカバー??
(平成26年問4E)
政府が行うことができる社会復帰促進等事業には、葬祭料の支給を図るために必要な事業が含まれる。
解説
解答:誤り
葬祭料の支給に関する事業は、社会復帰促進等事業には含まれていません。
たしかに、社会復帰促進等事業には遺族への援護事業がありますが、それは、就学の援護や、必要な資金の貸付といった、
長期的な視点に立った援護と考えることができ、お葬式という行事に対して援護を行うものではないということですね。
問題文にもあるように、葬祭料(葬祭給付)は、原則として31万5千円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に足りない場合は給付基礎日額の60日分)が支給されますので、
社会復帰促進等事業は、葬祭料の支給にはタッチしていないということですね。
それでは最後に「アフターケア」について見ておきましょう。
アフターケアは、所定の傷病にかかった場合の後遺症対策として設けられたものですが、
そのアフターケアを受けるための手順について問われた過去問がありますので確認しましょう。
アフターケアを受けるために必要なもの
(平成29年問3オ)
アフターケアを受けるためには、健康管理手帳が必要であり、新規にこの手帳の交付を受けるには、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長に「健康管理手帳交付申請書」を提出することとされている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
アフターケアを受けるためには、健康管理手帳を提出する必要があり、健康管理手帳を交付してもらうためには、
健康管理手帳交付申請書を、所轄労基署長の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出することになります。
このアフターケアは、たとえば業務災害で、せき髄を損傷した場合に一定の障害等級に該当していれば、定期的な診察や保健指導などを行ってくれます。
アフターケアについてご興味があるようでしたら、厚生労働省のWEBページのリンクを貼っておきますので、ご自由にご参考になさってくださいね。
参考記事:アフターケア実施要領及びアフターケア通院費支給要綱
今回のポイント
- 政府は、労働者及びその遺族について社会復帰促進等事業を行うことができ、災害については、業務災害と通勤災害の両方が対象になっています。
- 社会復帰促進等事業には、遺族の就学の援護も行っていて、在学者の区分に応じて在学者1人につき一定額を支給することになっています。
- 就学援護費は、労基署長が支給するかどうか決定するのですが、これは行政処分にあたるため、それを不服として訴訟を起こすことは可能です。
- 葬祭料の支給に関する事業は、社会復帰促進等事業には含まれていません。
- アフターケアを受けるためには、健康管理手帳を提出する必要があり、健康管理手帳を交付してもらうためには、健康管理手帳交付申請書を、所轄労基署長の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出することになります。
各科目の勉強法の記事をまとめました
労働基準法から一般常識までの全科目の勉強法の記事をまとめましたのでぜひご覧ください
リンク「社労士試験 独学合格法 各科目の勉強方法の記事をまとめました!」
科目ごとにまとめて記事を見ることができます!
スマホでご覧になっていただいている場合は、一番下までスクロールすると、科目名が並んでいますのでご覧になりたい科目をタップいただくと、その科目だけの記事を見ることができます。
もしくは、一番右上の三本線(メニューになっています)をタップしていただいて科目名を表示させる方法もあります。
ぜひご活用ください!
この記事へのコメントはありません。