労災保険が適用されるかどうかについては、基本的には「労働者を使用する事業」かどうかで決まるのですが、国の直営事業や官公署の事業は適用除外になっています。
でも、実際の社労士試験の問題では、具体例をあげて労災保険法が適用されるかどうかについての出題が多いです。
問題を解くカギは、「公務員性」と「使用関係」です。
一般的に、公務員は労災保険法ではなく、別の法律で災害補償をしています。
なので公務員性が高いということは労災保険の適用外と見ることができます。
「使用関係」については、「労働者を使用する事業」に労災保険が適用されるわけですから「使用関係」がなければそもそも労災保険の出番がないわけですね。
ではそれを基にして今回の過去問を見ていくことにしましょう。
「常勤」+「地方公務員」=労災保険?
(平成29年問4E)
労災保険法は、常勤の地方公務員に適用される。
解説
解答:誤
問題文の場合は労災保険法は適用されません。
「常勤」の地方公務員ということは生粋の公務員ですよね。
なので「公務員性が高い」と判断することができます。
ちなみに、常勤の地方公務員には、地方公務員災害補償法という法律が適用されます。
で、地方公務員でも労災保険法が適用されるのは、
「現業」+「非常勤」の地方公務員
です。
「現業」というのは、細かく説明するとキリがないのですが、過去に「市の経営する水道事業」というのが「現業」の例として出題されました。
なので「現業」というのは「役所の庁舎」というよりも「現場」というイメージが近いですね。
その「現業」で「非常勤」として働いている人は労災保険法が適用されるわけです。
次の問題は「使用関係」をキーワードにした過去問です。
問題自体、暗記するようなことではないのですが、考え方をチェックする感覚で見ていきましょう。
使用関係があるかどうかがカギ
(平成28年問1E)
都道府県労働委員会の委員には、労災保険法が適用されない。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
労働委員会というのは、労働組合法や労働関係調整法等に基づいて、労働組合と使用者との間の集団的労使紛争を解決するところです。
そこの委員は都道府県労働委員会の場合は「知事」が任命するのですが、別に知事に使用されているわけではなく、指揮命令も受けません。
なので、都道府県労働委員会の委員と知事には「使用関係にはない」と判断され、労災保険法は適用されない、ということになるのですね。
そこで次の問題を見てみましょう。
では行政執行法人の場合、労災保険は適用される?
(平成29年問4B)
労災保険法は、行政執行法人の職員に適用される。
解説
解答:誤
行政執行法人の職員には労災保険法は適用されません。
行政執行法人というのは、国と密接に関連し、国が相当関与する事務運営を行うところで、造幣局や国立公文書館などがそれにあたります。
それだけ見ても「公務員性」が高そうですね。
事実、行政執行法人の役員や職員は国家公務員なのだそうです。
ちなみに、行政執行法人の職員は、労災保険法は適用されませんが、労働基準法は適用されますので注意が必要ですね。
次は民間の方へ目を向けてみましょう。
労災保険法では、労働者の定義を労働基準法に合わせているのですが、労働基準法第9条では、
「労働者は、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
とあります。
労災保険では適用事業に使用されていることがプラスされますが。
ただ、同居の親族と家事使用人については原則、適用除外になります。
では、次の問題の場合、労災保険は適用されるのでしょうか。。。
どっちが本当の業務?
(平成28年問1C)
個人開業の医院が、2、3名の者を雇用して看護師見習の業務に従事させ、かたわら家事その他の業務に従事させる場合は、労災保険法が適用されない。
解説
解答:誤
問題文の場合は労災保険が適用されます。
問題文では「雇用して看護師見習の業務に従事」とありますので、本業は看護師見習ということにあり、家事はその「ついで」ということになります。
なので労基法第9条も適用になり、労災保険も適用になるというわけです。
反対に、「家事使用人として雇用」して看護師の仕事を手伝わせる場合は、「家事使用人」が本業なので労災保険は適用されません。
では次の問題の場合はどうでしょう。
インターンシップというのは一般的に「使用関係」はありませんが、実態が違っていた時は、、、
インターンシップでも労災保険が適用されることがある
(平成28年問1D)
インターンシップにおいて直接生産活動に従事しその作業の利益が当該事業場に帰属し、かつ事業場と当該学生との間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生に労災保険法が適用される。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
インターンシップで来ていても、「活動が事業場の利益」になって「使用関係」があるのであれば、労災保険法が適用されることになります。
インターンシップは、見学や体験が主な目的になるので一般的には使用者から指揮命令を受けず、使用関係もないのであれば労災保険法は適用される余地はありませんが、
事業場の利益になるような活動をして、使用関係も認められるのであれば、もはや労働者と一緒ですから労災保険も適用になるのですね。
最後に「出向」を論点とした過去問を見ておきましょう。
出向の場合に重要視されるのは〇〇
(平成26年問2イ)
ある事業に雇用される労働者が、その雇用関係を存続したまま、他の事業の業務に従事する、いわゆる出向の場合における当該労働者に係る保険関係が出向元事業と出向先事業とのいずれにあるかは、出向の目的及び出向元事業主と出向先事業主とが当該出向労働者の出向につき行った契約並びに出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定する。
解説
解答:正
問題文のとおりで、保険関係は、労働関係(使用関係)がどうなっているのか、契約がどうなっているのかなど、「労働の実態に基づいて」判断されます。
こちらについては通達のリンクを貼っておきますのでご自由にご参考になさってくださいね。
参考記事:出向労働者に対する労働者災害補償保険法の適用について 昭和三五年一一月二日 基発第九三二号
今回のポイント
- 労災保険の適用について、問題を解くカギは、「公務員性」と「使用関係」です。
- 地方公務員でも労災保険法が適用されるのは、「現業」+「非常勤」の地方公務員です。
- 都道府県労働委員会の委員は、知事とは使用関係がないので、労災保険法は適用されません。
- 行政執行法人の職員には労災保険法は適用されません。
- 労災保険法では、労働者の定義を労働基準法に準じていて、事業又は事務所(適用事業)に使用される者で、賃金を支払われる者が対象になります。
- 出向の場合、保険関係は、労働関係(使用関係)がどうなっているのか、契約がどうなっているのかなど、「労働の実態に基づいて」判断されます。
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