随時改定の定義は分かっていても、問題文に書いてあるケースがそれに当てはまるのかどうかを判断するのが難しかったりしますよね。
随時改定は、
・昇給又は降給等により固定的賃金に変動が起きた
・変動が起きた月からの3か月間に支給された報酬の平均の標準報酬月額と今までの標準報酬月額との間に2等級以上の差ができた
・その3か月は支払基礎日数がいずれも17日以上ある
時に改定しますが、問題文に書いてあることが上手く要件にうまくハマるとも限りません。
できることは、過去問を繰り返し解くことで、出題のパターンを身につけておくことです。
今回は、そんな随時改定(一部、定時決定や保険者算定が入っていますが)の過去問を集めてみましたので見ていくことにしましょう。
最初の問題は、昇給分の差額が遅れて支給された場合に、随時改定がどうなるか、という論点になっています。
昇級分が後でまとめて支払われた時は随時改定はどうなる?
(平成26年問9D)
月給制の被保険者について3月に行うべき昇給が、事業主の都合により5月に行われ、3月に遡った昇給差額が5月に支払われた場合、随時改定の対象になるのは5月、6月及び7月の3か月間に受けた報酬の総額(昇給差額を除く。)を3で除して得た額であり、それが随時改定の要件に該当したときは8月から標準報酬月額が改定される。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
問題文の場合、随時改定の対象となるのは、昇給差額が支払われた5月からになり、該当すれば8月から改定されます。(3月から対象になるわけではありません。)
つまり、5〜7月の3か月間の報酬の総額を3で割って平均額を出し、それを標準月額相当額に当てはめた時に、2等級以上の差ができたときは8月から標準報酬月額が改定されることになります。
ただ、さかのぼって支給された3、4月分の昇給差額分は上記の計算には入れません。
次は、いわゆる4分の3基準を満たした短時間労働者(短時間就労者)にかかる定時決定、随時改定の問題を見ておきましょう。
「4分の3」というのは、たとえばフルタイムが週40時間として、その4分の3にあたる週30時間以上働いている人のことを言います。
4分の3基準を満たした短時間労働者の定時決定と随時改定の要件
(平成24年問8B)
賃金支払基礎日数が、4月は16日、5月は15日、6月は13日であった場合の短時間労働者の定時決定は、4月及び5月の平均により算定された額をもって保険者算定によるものとし、同じ4月に固定的賃金の昇給があった場合には、4月及び5月の平均により随時改定の対象になる。(この短時間労働者はいわゆる4分の3基準を満たすものとする)
解説
解答:誤
問題文の場合の随時改定は、継続した3ヶ月のいずれの月においても支払基礎日数が17日以上であることが必要です。
4分の3基準を満たした短時間労働者(短時間就労者)の定時決定と随時改定は以下のようになっています。
- 定時決定(1〜3のいずれかの方法)
1. 4〜6月の3ヶ月間のうち支払基礎日数が17日以上の月の報酬月額の平均により算定された額とする
2. 4〜6月の3ヶ月間のうち支払基礎日数がいずれも17日未満の場合は、その3ヶ月のうち支払基礎日数が15日以上17日未満の月の報酬月額の平均により算定された額をもって、保険者算定による額とする
3. 4〜6月の3ヶ月間のうち支払基礎日数がいずれの月についても15日未満の場合は、従前の標準報酬月額をもって当該年度の標準報酬月額とする - 随時決定
短時間就労者の随時決定時における標準報酬月額の算定については、継続した3ヶ月のいずれの月においても支払基礎日数が17日以上であること。
となっています。
なので、問題文の場合は、定時決定についての記述は合っていますが、随時改定については、「継続した3ヶ月のいずれの月においても支払基礎日数が17日以上である」ことが条件になります。
さて、次の問題は産前産後休業で出勤をしていないために通勤手当を支給しておらず、そのことで随時改定の対象になるかどうかが論点になっています。
産前産後休業で通勤費がなくなった時、随時改定はある?
(平成28年問5E)
被保険者が産前産後休業をする期間について、基本給は休業前と同様に支給するが、通勤の実績がないことにより、通勤手当が支給されない場合、その事業所の通勤手当の制度自体が廃止されたわけではないことから、賃金体系の変更にはあたらず、標準報酬月額の随時改定の対象とはならない。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
問題文の場合は、産前産後休業で通勤をしていないので通勤手当を支給する必要がないわけです。
つまり、賃金体系の変更にはあたらず、固定的賃金にも変更がないので随時改定の対象にはならないということですね。
通達によると、
「産休等により通勤手当が不支給となっている事例において、通勤の実績がないことにより不支給となっている場合には、手当自体が廃止された訳ではないことから、賃金体系の変更にはあたらず、随時改定の対象とはならない」となっています。
こちらの通達は下のリンクに貼っておきますのでご自由にご参考になさってくださいね。
「問14」がその部分になります。
参考記事:健康保険法及び厚生年金保険法における「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について(平成25年5月31日 事務連絡)
では最後に、随時改定とはならずに保険者算定になるケースをご紹介しましょう。
3か月の報酬が変わってしまうのは、繁忙期など業務の性質上例年発生することが見込まれるのであれば保険者算定になる、とのことなのですが、問題文で気をつけたいのは、その計算方法です。。。
昇給や降給が業務の性質上例年発生する場合
(令和元年問9エ)
3か月間の報酬の平均から算出した標準報酬月額(通常の随時改定の計算方法により算出した標準報酬月額。「標準報酬月額A」という。)と、昇給月又は降給月以後の継続した3か月の間に受けた固定的賃金の月平均額に昇給月又は降給月前の継続した12か月及び昇給月又は降給月以後の継続した3か月の間に受けた非固定的賃金の月平均額を加えた額から算出した標準報酬月額(以下「標準報酬月額B」という。)との間に2等級以上の差があり、当該差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合であって、現在の標準報酬月額と標準報酬月額Bとの間に1等級以上の差がある場合は保険者算定の対象となる。
解説
解答:誤
問題文中にある「12か月」が誤りで、「9か月」が正解です。
つまり、9か月+3か月=12か月で、1年間の「非固定的賃金」について平均額を計算しているのです。
順を追ってご説明しましょう。
昇給や降給後の3か月で随時改定の計算方法で算出した「標準報酬月額A」と、
「昇給や降給のあった月以後3か月間の固定的賃金の月平均額」+「昇給や降給のあった月前9か月+それ以後3か月の合計1年間の非固定的賃金の平均額」で算出した「標準報酬月額B」
を出します。
この「標準報酬月額A」と、「標準報酬月額B」を比較して2等級以上の差がある。(要件1)
で、この「要件1」が業務の性質上、例年発生することが見込まれる場合で、今の標準報酬月額と「標準報酬月額B」との間に1等級以上の差がある場合に保険者算定の対象になります。
こちらの問題については、数字を覚えるというよりは、仕組みを理解しておけば形を変えて出題されても対応できると思います。
ちなみに、こちらは通達からの出題ですので、下に通達のリンクを貼っておきますね。
参考記事:健康保険法及び厚生年金保険法における標準報酬月額の定時決定及び随時改定の取扱いについて」の一部改正に伴う事務処理について」に関するQ&Aについて (平成30年3月1日 事務連絡)
今回のポイント
- 随時改定は、昇給差額が支払われた月から算定になり、月をさかのぼって算定されるわけではありません。
- 4分の3基準を満たした短時間就労者の随時改定は、継続した3ヶ月のいずれの月においても支払基礎日数が17日以上であることが必要です。
- 産休等により通勤手当が不支給となっている事例において、通勤の実績がないことにより不支給となっている場合には、手当自体が廃止された訳ではないことから、賃金体系の変更にはあたらず、随時改定の対象とはなりません。
- 給与の差が、業務の性質上例年発生することが見込まれる場合は、給与の変動のあった3か月の標準報酬月額と、1年間の給与を平均した標準報酬月額を比較して2等級以上あり、今の標準報酬月額と1年平均の標準報酬月額を比較して1等級以上ある場合は保険者算定の対象となります。
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