労災保険法の通則については、他の法律とかぶる部分が多いのですが、一部、特別支給金とのカラミであったり、年金給付の要件でひっかけてくるケースがあります。
なので、問題文をつい読み飛ばしてしまうと引っかかってしまうことがありますので、落ち着いて対処することが大切です。
最初の問題は、年金給付がいつ支給開始になるのか、についての過去問ですので見ていくことにしましょう。
年金たる保険給付がスタートするタイミングは?
(令元年問1A)
年金たる保険給付の支給は、支給すべき事由が生じた月の翌月から始めるものとされている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
年金たる保険給付の支給は、支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、支給を受ける権利が消滅した月で終わるものとされています。
で、せっかく保険給付を受けることができても、勤め先を辞めてしまった場合、その給付はストップしてしまうのでしょうか。
次の過去問で確認しましょう。
保険給付は勤め先を辞めると権利が消滅する?
(平成29年問7D)
保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはありません。
たとえば、治療開始後3年経っても治らない場合は、事業主に打切り補償の権利が発生しますが、労働者の労災保険を受ける権利が退職で変更されることはありません。
そもそも労災保険は、業務上や通勤でのケガや病気に対して出る保険ですから、勤め先を辞めたからからといって消滅してしまったりしては本末転倒ですよね。
さて、次は保険給付を受ける権利を他人にあげたりすることができるのかどうか、について見てみることにしましょう。
保険給付を受ける権利は他人に譲渡できる?
(平成24年問4B)
保険給付を受ける権利は、譲り渡すことができない。
解説
解答:正
問題文のとおりで、保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができません。
なので、保険給付の権利を借金のカタに差し出す、なんてことはできないのですね。
ただ、独立行政法人福祉医療機構に年金たる保険給付を受ける権利を担保に供する場合は大丈夫です。
ちなみに、特別支給金の場合は、保険給付ではないので、特別支給金を権利は、譲り渡し、担保に供し又は差し押さえることができます。
では、譲渡などができないということはわかりましたが、税金はどうなのでしょうか。
ケガや病気に対して給付される労災保険に税金をかけるってどうよ?と思いますが下の問題でチェックしましょう。
保険給付に税金はかかるの?
(平成24年問4C)
租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することはできない。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することはできません。
ここで注意しておきたいのは、「金銭」ではなく、「金品」という表現になっていることです。
労災保険では療養の給付があるので、お金だけではなく、薬剤などの「品物」での給付もあるので「金品」になっているんですね。
さて、特別支給金に関しては差し押さえることができる、という話でしたが、税金に関しては、特別支給金に対しても税金はかかりません。
下に国税庁のホームページのリンクを貼っておきますので、ご興味のある方はどうぞご覧ください。
参考記事:労災法の保険施設として支給される特別支給金に対する所得税及び相続税の取扱いについて
次は、未支給の保険給付についての過去問を2つ見てみることにしましょう。
一つ目は、「そもそも受給権者が請求していなかった場合」、二つ目は「まだ支給されていない保険給付がある場合」についての論点になります。
遺族補償年金を請求していなかったら他の遺族は自分の名前で請求できる?
(平成30年問4イ)
労災保険法に基づく遺族補償年金を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その死亡した者が死亡前にその遺族補償年金を請求していなかったときは、当該遺族補償年金を受けることができる他の遺族は、自己の名で、その遺族補償年金を請求することができる。
解説
解答:正
問題文のとおりで、「死亡した者が死亡前にその遺族補償年金を請求していなかったとき」であっても、遺族補償年金を受けることができる他の遺族が自己の名で請求することができます。
次に二つ目のパターンを見てみましょう。
支給していなかった遺族補償年金があったら他の遺族が自分の名前で請求できるの?
(平成30年問4ア)
労災保険法に基づく遺族補償年金を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき遺族補償年金でまだその者に支給しなかったものがあるときは、当該遺族補償年金を受けることができる他の遺族は、自己の名で、その未支給の遺族補償年金の支給を請求することができる。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
遺族補償年金の受給権者が死亡したときに、その人にまだ支給していなかったものがある場合は、その遺族補償年金を受けることができる他の遺族は、自己の名で支給されていない遺族補償年金を請求することができます。
さて、遺族(補償)給付などの保険給付についてですが、その支給のきっかけは労働者の方が亡くなっていることが要件になってしまうわけです。
しかしながら、亡くなったのかどうか分からないケースがありえます。
たとえば、船や飛行機が行方不明になった場合などです。
そのようなことが起こった場合、残された遺族の生活を守るために、次のような規定がありますので確認しましょう。
船舶が行方不明になった場合に、遺族(補償)年金などはどのタイミングで適用されるの?
(平成27年問5D)航空機も同様
船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった際現にその船舶に乗っていた労働者又は船舶に乗っていてその船舶の航行中に行方不明となった労働者の生死が3か月間わからない場合には、遺族補償給付、葬祭料、遺族給付及び葬祭給付の支給に関する規定の適用については、その船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった日又は労働者が行方不明となった日に、当該労働者は、死亡したものと推定することとされている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
船舶が沈没したり行方不明になったときに、労働者の方の生死が3か月間わからない場合、遺族(補償)給付や葬祭料、葬祭給付を支給するためのタイミングは、
船舶が沈没したり、行方不明になった日に、労働者が死亡したものと推定することにして手続きを進めることになります。
ここで注意しておきたいのは、あくまで「推定」するというところで、死亡したものと「みなしている」わけではないところです。
では最後に、年金給付について労基署長に届け出るタイミングについての過去問を確認しておきましょう。
年金給付で労基署長に届け出るタイミングについて
(平成25年問6)
年金たる保険給付の受給権者が、労災保険法施行規則第21条の2の規定 により、遅滞なく文書で所轄労働基準監督署長に届け出なければならないこととされている場合として、次の記述のうち、誤っているものはどれか。
A 受給権者の氏名及び住所に変更があった場合
B 同一の事由により厚生年金保険の障害厚生年金等又は厚生年金保険の遺族厚生年金等が支給されることとなった場合
C 同一の事由により支給されていた厚生年金保険の障害厚生年金等又は厚生年金保険の遺族厚生年金等の支給額に変更があった場合
D 同一の事由により支給されていた厚生年金保険の障害厚生年金等又は厚生年金保険の遺族厚生年金等が支給されなくなった場合
E 障害補償年金又は障害年金の受給権者にあっては、当該障害にかかる負傷又は疾病が治った場合(再発して治った場合は除く。)
解説
解答:Eが誤
障害(補償)年金は、そもそも「治ゆ」していることが支給要件になっているので、障害(補償)年金について、負傷や疾病が「治った」ときに所轄労基署長に届け出ることはありえません。
選択肢の最後に障害(補償)年金についての記載がありましたが、選択肢をザーッと読んでしまうと、障害(補償)年金の支給要件についての記憶の引き出しにたどり着かないことも十分ありそうですね。苦笑
今回のポイント
- 年金たる保険給付の支給は、支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、支給を受ける権利が消滅した月で終わるものとされています。
- 保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはありません。
- 保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができません。
- 租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することはできません。
- 「死亡した者が死亡前にその遺族補償年金を請求していなかったとき」であっても、遺族補償年金を受けることができる他の遺族が自己の名で請求することができます。
- 遺族補償年金の受給権者が死亡したときに、その人にまだ支給していなかったものがある場合は、その遺族補償年金を受けることができる他の遺族は、自己の名で支給されていない遺族補償年金を請求することができます。
- 船舶が沈没したり行方不明になったときに、労働者の方の生死が3か月間わからない場合、遺族(補償)給付や葬祭料、葬祭給付を支給するためのタイミングは、船舶が沈没したり、行方不明になった日に、労働者が死亡したものと推定することにして手続きを進めることになります。
- 障害(補償)年金は、そもそも「治ゆ」していることが支給要件になっているので、障害(補償)年金について、負傷や疾病が「治った」ときに所轄労基署長に届け出ることはありえません。
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