今回は、労働条件の定義ということで、「事業」、「使用者」、「労働者」の要件について論点になっている過去問を集めてみました。
労働基準法が適用されるかどうかは、上記の定義に当てはまっているのかどうかでまず判断されます。
つまり、労働者ではない人に労基法を適用することができませんので、定義付けをきっちりしておく必要がありますね。
しかし、現実問題として実際の状況にきっちり当てはまるかは個々に判断していくしかありません。
なので社労士試験でも、事例問題に近い形で出題されているものもありますから、一つ一つ見ていくことにしましょう。
では、最初の問題を見てみましょう。
こちらの過去問では、「事業」の定義が論点になっていますので確認しましょう。
「事業」の範囲はどのように決まる?
(平成26年問1D)
労働基準法第9条にいう「事業」とは、経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものであって、場所的観念によって決定されるべきものではない。
解説
解答:誤
一つの「事業」として判断するときは、「場所的観念によって決定するべき」となっています。
つまり、本社と工場が別々の場所にあるのであれば、その本社と工場は「別個の事業」とみなされます。
しかし、別々の場所にあったとしても、出張所などで事業と見るには規模が著しく小さい場合は、上位に位置する支店などと一括して一つの事業として取り扱われることもあります。
また、同じ場所にあっても、たとえば一つの工場に製造部門と食堂部門があって著しく労働の態様が違う場合に、
労務管理などを明確に区分して労基法を部門ごとに分けて運用できる時は、それぞれの部門を別個の事業とすることになります。
ただし、個々の労働者の業務による分割は認められません。
では、「使用者」の定義がどうなっているのかを見てみることにしましょう。
労基法第10条で使用者とは、
「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」
となっていますが、いまいちピンと来ないところがあります。
社長さんとか専務さんみたいに肩書きだけで判断できればいいのですが、必ずしもそういうわけにはならず、「名ばかり管理職」なんて用語も出たりしましたよね。
となると、「使用者」とはどのように決められるのでしょうか。。。
「使用者」はどのように定義されるのか
(令和2年問1B)
事業における業務を行うための体制が、課及びその下部組織としての係で構成され、各組織の管理者として課長及び係長が配置されている場合、組織系列において係長は課長の配下になることから、係長に与えられている責任と権限の有無にかかわらず、係長が「使用者」になることはない。
解説
解答:誤
問題文の場合、「責任と権限の有無にかかわらず、係長が使用者になることはない。」の部分が誤りです。
つまり、使用者とは課長とか係長などの役職名は関係なく、労基法の履行について実質的に一定の権限を与えられているかどうかによって判断されます。
たとえば、労働契約を結ぶときに、労働者になろうとしている人に対して、
勤務時間やお給料などを自分の裁量で決めて明示したり、業務について具体的な指揮監督を行なったりしている場合は、使用者である可能性がグッと上がります。
さて、「使用者」について、「派遣」の視点で見てみることにしましょう。
派遣の場合は、労働者と労働契約を結んでいるのはあくまで「派遣元」です。
派遣先からは「この仕事をしてください」といった業務についての指揮命令は受けますが、「使用者」になることはないのでしょうか。
次の過去問で確認しましょう。
派遣先が使用者になることはない?
(令和2年問1E)
派遣労働者が派遣先の指揮命令を受けて労働する場合、その派遣中の労働に関する派遣労働者の使用者は、当該派遣労働者を送り出した派遣元の管理責任者であって、当該派遣先における指揮命令権者は使用者にはならない。
解説
解答:誤
「派遣先における指揮命令権者は使用者にはならない」の部分が誤りです。
どういうことかというと、労働者と労働契約を結んでいるのは「派遣元」ですが、実際に労働をする場所は「派遣先」です。
となると、「労働時間(1日8時間・週40時間)」や「休憩」、「休日」について直接影響を与えるのは「派遣先」ということになります。
なので、上記のほかに「妊産婦の労働時間」や「育児時間」、「年少者の労働時間」といった、主に時間に関することは、「派遣先」が使用者として労基法が適用されることがあるんですね。
さて、次は「労働者」の要件について見ていくことにしましょう。
労基法でいうところの労働者は、
「この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」
と規定されています。
ただ、一般的に請負契約の場合には労働者とはみなされず、労基法の適用はありません。
請負契約でよく聞くのは大工さんですね。
「◯月◯日までにこの工事を終わらせてね」ということは決まっていますが、労働時間などについての拘束はありません。
なので、「大工さん→労働者」というイメージが湧きにくい(私だけ??)のですが、下の過去問の場合はどうでしょう。
やはり、大工さんが労働者になることはないのでしょうか。
大工さんが労働者になることはない??
(平成29年問2イ)
工場が建物修理の為に大工を雇う場合、そのような工事は一般に請負契約によることが多く、また当該工事における労働は工場の事業本来の目的の為のものでもないから、当該大工が労働基準法第9条の労働者に該当することはなく、労働基準法が適用されることはない。
解説
解答:誤
問題文のケースでも、大工さんが労働者に該当するケースがあります。
それは、使用者と大工さんとの間に「雇用契約」が結ばれていて使用従属関係が認められる場合は、労働者として労基法の適用を受けることになります。
たとえば、勤務場所や勤務時間が指定されていて使用者の管理下に置かれ、仕事をしているあいだ、
使用者から具体的な指揮命令を受けている場合は、労働者である可能性が高くなります。
なので、問題文のように「労働者に該当することはない」と断定することはできないですね。
では最後に、インターンシップと労働者の関係について取り扱った過去問を見ておきましょう。
インターンシップは、職業体験のイメージがあり、労働者として認められるのかどうかが論点になっていますのでチェックしましょう。
インターンシップの学生さんは労働者になる?
(平成30年問4エ)
いわゆるインターンシップにおける学生については、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合でも、不測の事態における学生の生命、身体等の安全を確保する限りにおいて、労働基準法第9条に規定される労働者に該当するとされている。
解説
解答:誤
インターンシップの学生さんでも、労働者に該当することがありますが、「不測の事態における学生の生命、身体等の安全を確保する限り」労働者になるわけではありません。
インターンシップで労働者になる要件は、会社から指示されて、会社の利益になる仕事をしている場合は、
実質的に労働者と変わりないとみなされて、労働者に該当することになります。
実際に裁判でも、研修医の方が病院で実質的に勤務状態だったとして労働者性が認められた判決(関西医科大学研修医事件)もあります。
あくまで、個別具体的に判断されるものですが、インターンシップの学生さんでも、業務として使用者から指揮命令を受けている場合は労働者に該当することがあるということですね。
今回のポイント
- 一つの「事業」として判断するときは、「場所的観念によって決定するべき」となっています。
- 使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者を言い、労基法の履行について実質的に一定の権限を与えられているかどうかによって判断されます。
- 「労働時間(1日8時間・週40時間)」や「休憩」、「休日」、「妊産婦の労働時間」や「育児時間」、「年少者の労働時間」のように、主に時間に関することは、「派遣先」が使用者として労基法が適用されることになります。
- 「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者を言い、労働者かどうかは、雇用契約や使用従属関係などがどの程度あるのか個別具体的に判断されます。
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