労災保険法で出題される事例問題といえば、業務災害や通勤災害で、「◯◯の場合は業務災害にあたる」といった形で出てきますね。
条文ベースでは頭に入っているとはいえ、実際のケースに当てはめた場合に、業務災害や通勤災害にあたるのかを判断するのが頭を悩ませますよね。
でも、丸暗記の知識だけではなく、問題文に書かれている情景を頭に思い浮かべてみると、一般常識の範囲内で判断できるものが多いです。
とはいっても、ある程度過去問で数をこなしておいて、正誤を判断するための価値基準をつかんでおくのがいいでしょう。
今回は、通勤災害についての過去問を集めてみました。
では、最初に通勤についての規定をおさらいしておきましょう。
法7条
2 前項第2号の通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
③ 第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
ですね。
規定を見ながらでも大丈夫ですので、規定の内容をベースにした問題を確認しましょう。
「合理的な経路」ってどういうこと?
(平成29年問5D)
通勤災害における合理的な経路とは、住居等と就業の場所等との間を往復する場合の最短距離の唯一の経路を指す。
解説
解答:誤
通勤災害における合理的な経路は、「最短距離の唯一の経路」ではありません。
規定にある、「合理的な経路及び方法」とは、通達によると、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである」とされています。
参考記事(通達):昭和48年11月22日基発644
一部抜粋しますね。
3 「合理的な経路及び方法」の意義
「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。
① 経路については、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。(中略)さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。
以上です。
なので、通勤災害における合理的な経路は、杓子定規的に最短経路だけを指す、というわけではないのですね。
現実的に考えて、毎日家から職場だけの往復だけで日常生活が成り立つわけではないですから。
ちなみに、問題文に、「唯一の」とか、「〜のみ」など限定的な表現が出てきたときは疑ってかかった方がいいですね。
あまりそこに固執すると危険ですが、限定的な表現が出てきたら、誤りの問題文である可能性が出てきます。
次は通勤の「逸脱・中断」についての規定を見ていくことにしましょう。
まず、規定では、
「労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第1項第2号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」
となっています。
これをふまえて次の問題を見てみましょう。
読み飛ばしに注意ですよ。
通勤の途中で合理的経路を逸脱した場合は?
(平成28年問5オ)
労災保険法第7条に規定する通勤の途中で合理的経路を逸脱した場合でも、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱の間も含め同条の通勤とする。
解説
解答:誤
「逸脱の間も含め」ではなく、「逸脱の間を除き」です。
家で勉強しているときは引っかかりそうもない単純な問題ですが、本試験会場で緊張している時に問題文を読むと、ついつい読み飛ばしてしまう可能性が出てきてしまいます。
これを防ぐには、問題演習をしている時に、同じ問題を何回か解いている段階になっても、きっちり一字一句きちんと読むクセをつけることです。
試験勉強も後半になってくると、はじめて見る問題よりも、何回か解いたことのある問題の方が増えてきます。
その時に、見たことがあるからといって読み飛ばすクセがついてしまうと、本試験でも見たことのある問題に当たった時に、「あ、知ってる知ってる」みたいになり、つい読み飛ばして引っかけ問題のワナにハマってしまうのです。
勉強の時から、いつでも問題文を丁寧に読むクセをつけておくようにしましょうね。
さて、次はいよいよ事例問題を見ていくことにしましょう。
わたしは、この問題を本試験会場で解いたのですが、見事に間違えてしまいましたよ。。。
美容院って、、、
(平成27年問3E)
会社からの退勤の途中で美容院に立ち寄った場合、髪のセットを終えて直ちに合理的な経路に復した後についても、通勤に該当しない。
解説
解答:誤
会社からの退勤の途中で美容院に立ち寄る行為は、「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当します。
なので、髪のセットを終えて直ちに合理的な経路に復した後は、通勤に該当します。
私は、「髪のセット」を見たときに、瞬間的に通勤にはあたらないと早合点をしてしまいました。
これは、私の普段の生活スタイルが、正誤を判断するときに邪魔をしてしまったのです。
私は普段、髪を切るときは、髪のセットなどをせず、ただ「髪を切るだけ」です。
なので、「髪をセット」する行為は「ぜいたく行為」みたいに不覚にも思ってしまったので、「やむを得ない事由により行うための最小限度のもの」にはあたらない!と思ってしまったのですね。
でも世間的には、美容院に行けば髪を切るだけでなく、セットをすることも普通にしますよね。
自分だけの価値基準で判断してしまった苦い経験でした。
ですので、あなたも問題演習を通じて社労士試験を解く際の一般的な価値基準を身につけることをオススメします。笑
では最後にもう一問事例問題をチェックしましょう。
会社帰りに喫茶店で雑談しているのはどう思いますか?
喫茶店で雑談をしている行為はどうなる?
(平成28年問3D)
勤務を終えてバスで退勤すべくバス停に向かった際、親しい同僚と一緒になったので、お互いによく利用している会社の隣の喫茶店に立ち寄り、コーヒーを飲みながら雑談し、40分程度過ごした後、同僚の乗用車で合理的な経路を通って自宅まで送られた労働者が、車を降りようとした際に乗用車に追突され負傷した場合、通勤災害と認められる。
解説
解答:誤
問題文の場合は、通勤災害と認められません。
「会社の隣の喫茶店に立ち寄り、コーヒーを飲みながら雑談し、40分程度過ごした」行為は、
「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」と認められないからです。
問題文の行為と規定を並べてみるとよくわかりますね。
この問題も、私は本試験で解きましたが、「40分程度過ごした」の文章を見てこれは違うな、と思いました。
ちなみにこの問題を解いた年に合格したのですが、この感覚はよく覚えています。笑
今回のポイント
◆通勤の定義です。
通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
③ 第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
◆逸脱と中断についての定義です。
「労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第1項第2号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」
◆勉強の時から、いつでも問題文を丁寧に読むクセをつけておくようにしましょう!
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