唐突ですが、健康保険法の目的条文(第1条)をみてみましょう。
法1条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
となっています。
この赤字の部分は、法改正前の条文では、「業務外の事由」となっていたため、たとえば副業で労災保険が受けられない請負の仕事のときにケガをしても健康保険が受けられないケースがありました。
実際に、シルバー人材センターの請負業務などを受けて仕事中にケガをしても全額自己負担になっていて問題になったようです。
そこで、労災保険と健康保険の間の穴をふさぐために、目的条文が「業務外の」から「業務災害以外の」に変更になったのです。
これに関連して、社労士試験でもいろいろな形で出題されていますので、過去問をチェックしていきましょう。
業務で法人の代表者がケガをしても健康保険が使える?
(平成30年問10A)
被保険者が5人未満である適用事業所に所属する法人の代表者は、業務遂行の過程において業務に起因して生じた傷病に関しても健康保険による保険給付の対象となる場合があるが、その対象となる業務は、当該法人における従業員(健康保険法第53条の2に規定する法人の役員以外の者をいう。)が従事する業務と同一であると認められるものとされている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
ポイントは、
- 被保険者が5人未満である適用事業所
- 従業員が従事する同一の業務
である業務に起因した傷病の場合は、健康保険の保険給付の対象になることがあります。
たとえば、従業員が3人の金属加工業を営んでいる社長さんがいるとします。
その社長さんは、毎日従業員の方と一緒に金属を加工する作業をしていますが、ある日、金属加工の作業中にケガをしてしまった場合に、健康保険が使える可能性がある
ということです。
もしその社長さんが労災保険の中小事業主の特別加入に入っていて、労災保険が受けられるようでしたら、そちらが優先されるでしょうが、労災保険が受けられない場合は、健康保険が受け皿になっている、というイメージですね。
「従業員が従事する同一の業務」としてあるのは、社長としての仕事をしているときにケガをしても、それに関しては健康保険は出ないので自己負担でよろしく、という意味です。
あくまでも、「従業員の方と同じ仕事をしているとき」というのが条件です。
そのイメージを持ったまま、次の過去問を見てみましょう。
業務中のケガで傷病手当金までカバー?
(平成26年問2C)
被保険者の数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員としての業務(当該法人における従業員が従事する業務と同一であると認められるものに限る。)に起因する疾病、負傷又は死亡に関しては、傷病手当金を含めて健康保険から保険給付が行われる。
解説
解答:正
こちらも問題文のとおりです。
健康保険から保険給付が行われる場合は、傷病手当金も含めた保険給付が行われます。
療養の給付が受けられるなら、傷病手当金も付けましょうということですね。
では、次は通勤中の負傷についてのケースで、労災保険とからめた過去問です。
任意適用の労災保険に未加入だと健康保険も使えない??
(平成26年問4B)
健康保険の被保険者が通勤途上負傷し、労災保険の保険給付を受けることができるときは、その負傷について健康保険からの保険給付は行われず、その者が勤務する事業所が労災保険の任意適用事業所で労災保険に未加入であった場合にも、同様に健康保険からの保険給付は行われない。
解説
解答:誤
健康保険の被保険者が、労災保険の任意適用事業所に勤めている労働者の場合、労災保険に加入する前に生じた通勤中の負傷については、健康保険の給付を受けることができます。
勤めている任意適用事業所が、労災保険に加入していればもちろん通勤災害が適用される可能性がありますが、任意適用なので、労災保険への加入義務がありません。
なので、労災保険が適用されない場合は、健康保険でカバーしましょう、ということですね。
最後に、副業中の傷病について健康保険がどのように関わるのかをチェックしましょう。
副業中にケガをしても健康保険は受けられる?
(平成28年問5D)
被保険者が副業として行う請負業務中に負傷した場合等、労働者災害補償保険の給付を受けることのできない業務上の傷病等については、原則として健康保険の給付が行われる。
解説
解答:正
副業の請負業務中に負傷して労災保険が受けられない場合は、健康保険の給付が受けられます。
問題文の場合は、請負業務ということなので、基本的に労災保険の適用がありません。
そんな中、仕事中にケガをした場合でも、労災保険の保険給付は受けられません。
ですので、そういうケースの場合は、健康保険の給付を受けられるようにしましょう、ということですね。
ちなみに、今回取り上げた過去問は、以下の厚生労働省からの事務連絡という形で指示が出ていますのでご参考になさってください。
参考記事:平成25年8月14日事務連絡
今回のポイント
- 法1条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
- 被保険者が5人未満である適用事業所で、従業員が従事する同一の業務である業務に起因した傷病の場合は、健康保険の保険給付の対象になることがあり、傷病手当金も対象になっています。
- 健康保険の被保険者が、労災保険の任意適用事業所に勤めている労働者の場合、労災保険に加入する前に生じた通勤中の負傷については、健康保険の給付を受けることができます。
- 副業の請負業務中に負傷して労災保険が受けられない場合は、健康保険の給付が受けられます。
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