今回は、労災保険法の中から、不正受給をしたときの費用徴収や、損害賠償と保険給付の調整について取り扱った過去問を集めてみました。
中には、裁判の判決文でしか使わないと思われるような言い回しがあって難しい問題文もありますが、
制度の趣旨をつかんでいただけましたら幸いです。
それでは1問目の問題を見てみましょう。
この過去問は、保険給付の不正受給をしたのが保険給付を受ける人だけでなく、事業主もウソの報告をしていたときの取り扱いです。
事業主が虚偽の報告をしたときの取り扱い
(令和2年問2D)
偽りその他不正の手段により労災保険に係る保険給付を受けた者があり、事業主が虚偽の報告又は証明をしたためその保険給付が行われたものであるときは、政府は、その事業主に対し、保険給付を受けた者と連帯してその保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部である徴収金を納付すべきことを命ずることができる。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
保険給付を不正に受けようとした者ばかりでなく、事業主がウソの報告や証明をした場合、
政府は事業主に対しても保険給付を受けた人と連帯して徴収金を納付しなさいと命ずることができます。
事業主も不正行為をしておいて責任を問えないというのはおかしいですよね。
では、事業主は事業主でも、派遣先が事実と違う報告や証明を行なったときはどうなるのでしょう?
やはり連帯責任を負うのでしょうか。。。
派遣先が事実と違う報告や証明をした場合は、、、?
(平成26年問5D)
派遣労働者が偽りその他不正の手段により保険給付を受けた理由が、派遣先事業主が不当に保険給付を受けさせることを意図して事実と異なる報告又は証明を行ったためである場合には、政府は、派遣先事業主から、保険給付を受けた者と連帯してその保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を徴収することができる。
解説
解答:誤り
派遣先事業主については連帯責任の規定は適用されません。
派遣先が派遣労働者の労働保険料を納付しているわけではないからでしょうか。
ただ、派遣元事業主が不当に事実と異なる報告や証明をした場合は、当然、連帯責任を負うことになります。
こちらについては通達がありますので、リンクを貼っておきますね。
「第三 派遣労働者に係る労働者災害補償保険の給付について」のところに記載があります。
参考記事:労働者派遣事業に対する労働保険の適用及び派遣労働者に係る労働者災害補償保険の給付に関する留意事項等について 昭和六一年六月三〇日 発労徴第四一号、基発第三八三号
さて、次は第三者行為災害について見てみましょう。
たとえば、通勤中に車にぶつけられたなど、他人が原因でケガなどをしたときの規定について、次の問題を確認していきます。
第三者行為災害の場合のルール
(令和元年問2イ)
保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じたときは、保険給付を受けるべき者は、その事実、第三者の氏名及び住所(第三者の氏名及び住所がわからないときは、その旨)並びに被害の状況を、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
保険給付を受けるべき人は、事故の原因が第三者の行為によるものの場合は、その第三者の氏名や住所、被害の状況を遅滞なく所轄労基署長に届け出る必要があります。
第三者行為災害が起きると、政府が保険給付をした場合、事故を起こした第三者に対して政府はその価額の限度で損害賠償の請求権を得ます。
また、保険給付を受けるべき人が、もし先に第三者から損害賠償を受けたとき、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができます。
つまり、保険給付と第三者からの損害賠償の二重取りはさせないよ、ということです。
なので、第三者の氏名などが分からなくても第三者行為災害である旨を届け出る必要があるんですね。
では、もし保険給付を受ける人と事故を起こした第三者との間に示談が成立して、
保険給付を受ける人に損害賠償しなくていいよ、ということになった状態で、保険給付を行った場合はどうなるのでしょうか。
政府はそれでも第三者に対して損害賠償の請求を行うのでしょうか?
第三者行為災害で示談が成立した場合に政府の損害賠償請求はどうなる?
(平成29年問6E)
労災保険法に基づく保険給付の原因となった事故が第三者の行為により惹起された場合において、被災労働者が、示談により当該第三者の負担する損害賠償債務を免除した場合でも、政府がその後労災保険給付を行えば、当該第三者に対し損害賠償を請求することができるとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である。
解説
解答:誤り
問題文の場合、政府は第三者に対して損害賠償請求を行うことはできません。
保険給付を受ける人が、第三者から損害賠償を受けたり、損害賠償を免除したら、
その範囲については政府から第三者に対する損害賠償権も消滅する、という形になるので、
政府が保険給付をしても損害賠償できないよ、という判例(小野運送事件)があります。
では最後に、事業主と政府の関係について取り扱った過去問を見てみましょう。
こちらも、第三者行為と同じく、保険給付を受ける労働者が二重取りにならないように調整を行うのですが、
下の問題では、保険給付が事業主の損害賠償についてどれだけカバーするのか、という論点になっています。
ちょっと聞きなれない用語が出てきますが、取りあえずひととおり読んでみましょう。
保険給付が損害賠償と調整できる範囲
(平成29年問6A)
政府が被災労働者に対し労災保険法に基づく保険給付をしたときは、当該労働者の使用者に対する損害賠償請求権は、その保険給付と同一の事由については損害の填補がされたものとしてその給付の価額の限度において減縮するが、同一の事由の関係にあることを肯定できるのは、財産的損害のうちの消極損害(いわゆる逸失利益)のみであり、保険給付が消極損害の額を上回るとしても、当該超過分を、財産的損害のうちの積極損害(入院雑費、付添看護費を含む。)及び精神的損害(慰謝料)を填補するものとして、これらとの関係で控除することは許されないとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
こちらは、青木鉛鉄事件という、仕事中に同僚から暴行を受けたという最高裁判例からの出題なのですが、
この事件では、治療費や休業補償費などの損害額よりも保険給付の額の方が多かったようです。
しかし、被害を受けた労働者は、会社と加害者を相手に損害賠償請求をしました。
一見、損害額よりも保険給付の方が多かったのであれば、会社も労働保険料を納めているわけですし、保険給付があればいいじゃないか、とも思えますが、
判決では、保険給付でカバーしているのは、あくまで事件がなければ得られたはずのお給料などの収入面(逸失利益)だけで、
入院費などの積極損害や、慰謝料といった精神的損害まではカバーしていないので、
会社と加害者はちゃんと損害賠償をしなさい、ということになりました。
今回のポイント
- 保険給付を不正に受けようとした者ばかりでなく、事業主がウソの報告や証明をした場合、政府は事業主に対しても保険給付を受けた人と連帯して徴収金を納付しなさいと命ずることができます。
- 派遣先事業主については連帯責任の規定は適用されません。
- 保険給付を受けるべき人は、事故の原因が第三者の行為によるものの場合は、その第三者の氏名や住所、被害の状況を遅滞なく所轄労基署長に届け出る必要があります。(氏名などが分からない場合はその旨も届け出ます)
- 保険給付を受ける人が、第三者から損害賠償を受けたり、損害賠償を免除したら、その範囲については政府から第三者に対する損害賠償権も消滅する、という形になるので、政府が保険給付をしても損害賠償請求はできません。
- 保険給付でカバーしているのは、あくまで事件がなければ得られたはずのお給料などの収入面(逸失利益)だけで、入院費などの積極損害や、慰謝料といった精神的損害まではカバーしていないので、事業主などは損害賠償をしなければならない可能性があります。
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