労基法の「労働契約の締結」にまつわる要件は、社労士試験で出題される論点満載です。
それは、労働条件の明示や労働契約の期間など、労働契約ひとつで色々な問題ができるからですね。
勉強する方にとっては覚えることがたくさんあって大変ですが、まずは「労働者視点」で見ていくと整理しやすいかもしれませんので一つ一つ再確認していきましょう。
それでは最初の問題へ進みたいと思います。
1問目は賃金に関する労働条件の明示が論点になっていますので見てみましょう。
賃金に関する明示についてのルール
(令和2年問5イ)
労働契約の締結の際に、使用者が労働者に書面により明示すべき賃金に関する事項及び書面について、交付すべき書面の内容としては、労働者の採用時に交付される辞令等であって、就業規則等(労働者への周知措置を講じたもの)に規定されている賃金等級が表示されたものでもよい。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
労働契約を結ぶとき、使用者は労働条件を書面で明示しなければならない項目があります。
それは、
- 労働契約の期間(期間の定めのある労働契約の場合は更新に関する基準も)
- 就業の場所や従事する業務の内容
- 始業・終業時刻や残業の有無など労働時間に関すること
- 賃金の決定や計算、支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
となっています。
で、賃金の額については、就業規則で定められている賃金等級でも良いということです。
つまり、働く人がどれだけのお給料がもらえるのか特定できれば大丈夫ということになりますね。
ちなみに、労働条件の「書面による明示」は所定の要件を満たせば、ファックスや電子メールでもOKになっています。
さて、労働契約には、期間の定めのない無期労働契約と、期間の定めのある有期労働契約がありますが、
有期労働契約の場合、契約期間の長さの上限は通常は3年です。
ですが、高度の専門的知識がある人と満60歳以上の人との労働契約については5年とすることができます。
ただ、次の問題のケースではちょっと事情が違うようですので見てみましょう。
労働契約の長さの上限
(令和2年問5ア)
専門的な知識、技術又は経験(以下「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約については、当該労働者の有する高度の専門的知識等を必要とする業務に就く場合に限って契約期間の上限を5年とする労働契約を締結することが可能となり、当該高度の専門的知識を必要とする業務に就いていない場合の契約期間の上限は3年である。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
有期労働契約に上限があるのは、契約期間が長くなることで人身拘束や足止めを防ぐために通常は3年までしか契約できないのですが、
土木工事など事業の終わりがはっきりしている場合はその期間、高度の専門知識のある人や満60歳の人は5年まで延ばすことができます。
しかし、高度の専門的知識を持っている人を雇っても、専門的知識が必要ない仕事に就くのであれば適用しないよ、ということですね。
たとえば、社労士の資格を持っている人を雇っても営業事務といった、社労士にまったく関係のない仕事に就かせる場合は、有期雇用契約の上限は3年になるというわけです。
こちらについては通達からの出題になりますので、リンクを貼っておきますね。
参考記事:労働基準法の一部を改正する法律の施行について 平成15年10月22日 基発第1022001号
では次に、ちょっと変わった過去問をチェックしましょう。
労働契約に関する規定で労基法と労働組合法で表現の仕方が違っているのです。
ちょっとしたニュアンスの違いなのですが、それぞれの立場を理解するのにはいい問題だと思いますので見てみてください。
労働契約に対する労基法と労働組合法の規定の違い
(平成27年問3A)
労働協約に定める基準に違反する労働契約の部分を無効とする労働組合法第16条とは異なり、労働基準法第13条は、労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とすると定めている。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
労働組合法では「労働協約に定める基準に違反する労働契約の部分を無効」としているのに対し、
労基法では、「労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効」となっています。
どういうことかというと、規定の優先順位としては
「法令>労働協約>就業規則>労働契約」
となっているのですが、労基法は労働条件の一般的な最低基準を定めているので、
労働契約はその基準以上の内容でないといけないわけで、
その基準を満たしていない部分の労働契約は無効という表現になります。
労働組合法でいうところの労働協約は、労使が話し合ってお互いが納得して作り上げた具体的な形になった労働条件なので、
それに違反する部分の労働契約は無効としているイメージですね。
では、次は派遣労働者の方に目を向けてみましょう。
派遣労働者は、労働契約は派遣元と結びますが、実際に働くのは派遣先です。
なので、労働時間などについては派遣先によって変わってくるので、
派遣労働者に対する労働条件の明示は、派遣元と派遣先のどちらが行うのかが論点になっていますので見てみましょう。
派遣労働者に対する労働条件の明示は誰がする?
(平成29年問3E)
派遣労働者に対する労働条件の明示は、労働者派遣法における労働基準法の適用に関する特例により派遣先の事業のみを派遣中の労働者を使用する事業とみなして適用することとされている労働時間、休憩、休日等については、派遣先の使用者がその義務を負う。
解説
解答:誤り
労働時間、休憩、休日等についての労働条件の明示は、派遣先ではなく、派遣元にその責任があります。
どういうことかというと、労働時間、休憩、休日等の労働者の具体的就業に関連する事項については、派遣労働者が実際に仕事をする場所なので派遣先にその責任があります。
しかし、労働条件の明示については、派遣元が派遣労働者と労働契約を結ぶので、これを派遣先に押し付けることはできず、派遣元が責任を持って行うことになります。
では最後に、有期労働契約につきまとう「雇止め」について取り扱った過去問を見ておきましょう。
使用者が雇止めを行う場合にもルールがあるのですが、いったいそれはどういうものなのでしょうか。
雇止めについてのルールとは
(平成24年問2A)
労働基準法第14条第2項の規定に基づく「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)」によると、期間が2か月の労働契約(あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。)を3回更新し、4回目に更新しないこととしようとする使用者は、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
雇止めをする場合、「労働契約を3回以上更新し、または雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者」に対しては、
契約の期間の満了する日の30日前までに、雇止めをする旨の予告が必要になります。
労働契約を3回以上更新していたり、1年以上その事業場で働いている場合は、労働者に「ひょっとしたら次も更新してもらえるかも」といった期待感が大きくなります。
なので、契約満了ギリギリのタイミングで「もう契約更新しないから」といったとすると、労働トラブルに発展する可能性が高くなります。
したがって、上記の場合は労働者の生活を守るために、30日前までに予告をする必要があるのですね。
この30日というのは解雇の予告と同じ日数ですね。
今回のポイント
- 労働契約を結ぶとき、使用者は労働条件を書面で明示しなければならない項目があり、
- 労働契約の期間(期間の定めのある労働契約の場合は更新に関する基準も)
- 就業の場所や従事する業務の内容
- 始業・終業時刻や残業の有無など労働時間に関すること
- 賃金の決定や計算、支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
となっていますが、賃金に関しては、就業規則で記載されている等級での明示も大丈夫です。
- 高度の専門的知識がある人と満60歳以上の人との労働契約については5年とすることができますが、高度の専門知識がある人の場合、その知識が必要な仕事でないとダメです。
- 労働組合法では「労働協約に定める基準に違反する労働契約の部分を無効」としているのに対し、労基法では、「労働基準法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効」となっています。
- 労働時間、休憩、休日等についての労働条件の明示は、派遣先ではなく、派遣元にその責任があります。
- 雇止めをする場合、「労働契約を3回以上更新し、または雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している者」に対しては、契約の期間の満了する日の30日前までに、雇止めをする旨の予告が必要になります。
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