今回は、労働契約法の中から「懲戒・解雇」について取り扱った過去問を取り上げました。
まずは、使用者がちゃんとした手続きを踏んで懲戒や解雇を行なっていなければ、労働者とトラブルになり、
裁判になったとしても使用者が不利になる可能性が高い、ということを押さえておきましょう。
社労士試験では、判例からの出題が多いですが、問題文を読んだときに「ん〜、これはこういうことじゃないかな」と思えることができれば正答率も上がってくるでしょう。
リーガルマインドとは違うものかもしれませんが、そういった感覚を養うためには、やはり基本的な問題の演習やテキストの通読を繰り返し行うことが必要になります。
手を広げすぎると大変なので、基本的事項に範囲を絞って何度も学習することができるかどうかが成否の分かれ目になるかもしれませんね。
それでは過去問を見ていくことにしましょう。
最初の問題では、使用者が行う懲戒処分が無効になるケースがどういうことなのかが論点になっています。
懲戒処分が権利の濫用になるのがどういうときなのでしょうか。
使用者が懲戒処分を行なっても無効になることが?
(平成24年問1E)
使用者が労働者を懲戒することができる場合においても、当該懲戒が、その権利を濫用したものとして、無効とされることがある。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
労働契約法15条には、
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
と規定されています。
つまり、誰の目から見ても、「あ〜、これは懲戒処分を受けても仕方ないよね。」と思える理由がないと、
権利の濫用とみなされて無効になってしまうということですね。
ただ、ちょっと気になるのが、先ほどの条文で「使用者が労働者を懲戒することができる場合」とありますが、
使用者が労働者を懲戒するためには、何か必要なことがあるのでしょうか。
次の過去問でもう少し詳しく見てみましょう。
使用者が労働者を懲戒するための要件
(平成30年問3エ)
「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことをもって足り、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていない場合でも、労働基準法に定める罰則の対象となるのは格別、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずることに変わりはない。」とするのが、最高裁判所の判例である。
解説
解答:誤
就業規則は、その内容を労働者に周知させる手続きが必要なので、問題文は誤りです。
これは、「フジ興産事件」という最高裁判例からの出題なのですが、使用者が労働者を懲戒するためには、
- あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくこと
- 懲戒の適用を受ける事業場の労働者に内容を周知させる手続が採られていること
が必要だということです。
上記の事件では、懲戒について就業規則で定めて労基署に届出をしていたのですが、問題のあった事業所では就業規則が備え付けられていなかったそうです。
労働者を懲戒する以上、どういった場合にどのような懲戒が課せられるのか、会社のルールである就業規則を定めることはもちろんのことですが、
ちゃんと労働者に周知の手続きを取っていないと意味がない、ということなんでしょうね。
さて、次は解雇について見ていくことにしましょう。
下の過去問では、有期の労働契約の途中で、使用者が労働者を解雇するときの要件について問われています。
契約期間中の解雇が認められるためには
(令和元年問3エ)
有期労働契約の契約期間中であっても一定の事由により解雇することができる旨を労働者及び使用者が合意していた場合、当該事由に該当することをもって労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」があると認められるものではなく、実際に行われた解雇について「やむを得ない事由」があるか否かが個別具体的な事案に応じて判断される。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、やむをえない事由がなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することができません。
労働契約の期間の定めのない正社員などと違って、使用者が自分で契約に期限を区切ったわけですから、「やむを得ない事由」の要件が有効かどうかは、個別具体的に判断されることになります。
とはいっても、解雇するにはそれなりの理由があるわけで、労働者側に原因があるケースもあるでしょう。
もし、労働者の能力が不足している場合、解雇はできるのでしょうか。
能力不足の場合の解雇は有効?
(平成27年問1D)
裁判例では、労働者の能力不足による解雇について、能力不足を理由に直ちに解雇することは認められるわけではなく、高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を与えるための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格等が必要とされる傾向がみられる。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
これは、通達からの出題ですが、まず、「職務限定」というのは、労働時間や勤務地、職種など雇用内容を限定している状態を指します。
たとえば、転勤のない時短社員みたいなイメージですかね。
で、本題に入りますが、たとえ、労働者の能力が不足していて、仕事を任せられない状態なので解雇を行いたいとしても、
労働者の能力不足というだけですぐに解雇できるわけではなく、高度な専門性のない仕事であれば、他の仕事ができる可能性がありますから、
警告や、教育訓練、配置転換などの処置を解雇の前に行う必要があります。
なぜ、このような措置が必要なのかというと、「能力不足」というだけで解雇したとしても、労働者と使用者との間で不当解雇をめぐってトラブルになることが多いからなんですね。
こちらの通達は、下にリンクを貼っておきますので、ご自由にご参考になさってくださいね。
参考記事:多様な正社員に係る「雇用管理上の留意事項」等について 平成26年7月30日 基発0730第1号
それでは、使用者が労働者を懲戒解雇したものの、裁判によって解雇が無効になった事例が出題されていますので、最後に見ておきましょう。
問題文を読んでみて、「あ〜、この解雇は無効になるよね」と思えるでしょうか。
使用者が権利の濫用となるケース
(平成29年問1D)
従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして、使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で当該事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において、当該事件には目撃者が存在しており、捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと、当該諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなど判示の事情の下では、当該諭旨退職処分は、権利の濫用として無効であるとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である。
解説
解答:正
問題文のとおりです。
これは、「ネスレ日本事件」という最高裁判例のものですが、
問題文を読んでいると、職場で暴行事件を起こしていて、目撃者もいた状況なので、そのことについてだけ見ると、懲戒解雇になっても仕方ないのかな、と思います。
なので、暴行事件があったときに懲戒解雇していれば、不当解雇にならなかったかもしれませんが、
捜査機関による捜査の結果(結局、不起訴になったそうです)を7年も待った後に諭旨退職処分を行うのは、権利濫用になる、という判決でした。
問題文を読んだときに、「え?7年も経ってるの??」と思うことができればこっちのものですね。
今回のポイント
- 「使用者が労働者を懲戒することができる場合、その懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります。
- 使用者が労働者を懲戒するためには、
- あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくこと
- 懲戒の適用を受ける事業場の労働者に内容を周知させる手続が採られていること
が必要です。
- 期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、やむをえない事由がなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することができませんが、解雇が有効かどうかは個別具体的に判断されます。
- 労働者の能力が不足していたとしても、労働者の能力不足というだけですぐに解雇できるわけではなく、高度な専門性のない仕事であれば、警告や、教育訓練、配置転換などの処置を解雇の前に行う必要があります。
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